さよならは響かない
気づけば時計の短い針が8を指していた。
シキがくれた約束の時間まで、あと少しだった。
「…伝えたら、もう、」
もう、佐久にいのことが好きじゃないと、
そう伝えてしまえば、わたしたちは終わりだ。
何度も終わらせようとしてきた最後のさよならは、意外とあっけなく終わってしまうのかもしれない。
それが怖くてもうずっと、3年前からその場で立ち止まっているままだった。
それでも、
もうこれ以上シキのことを縛り付けているのはダメだと思った。
シキのことが好きなあの子のことを、シキはこれから好きになるかもしれないし、
わたしはシキへの恋心を、伝えない限り終わらすことはできない。
次、さよならを告げるのなら、
もう二度と、シキのことを縛るようなことはしない。
佐久にい、
そうやって呼べば、優しい声で、うん、と返ってきた。
「……佐久にいのこと、好きだった」
「…うん、」
「わたしの、初恋だった」
「──うん、ありがとう、」
澪央なら、だいじょうぶだよ。
こくん、とうなずけば、佐久にいは笑顔を見せてくれた。
もう一度、あやすように撫でられた手のひらが、
わたしの初恋をようやく終わらせてくれた合図だった。