さよならは響かない
「……、」
今日のシキは無言の日だった。
それはわたしにとって都合のいいものだと思った。
シキが話しかけてくれないのなら、わたしが話せばいい。
もし本当に今日、「終わらせる」のなら、このほうが都合がよかった。
ここに来るまでの2時間ずっと、
ご飯を食べているときもお風呂に入っているときも、ずっとシキのことを考えていた。
どうすればシキにうまく言葉を伝えられるのか、
ほんの少しでもシキに嫌われない方法を考えていた。
けれど、正解は見つからない。
シキはスマホの画面を見ている。
画面は横向きで、よくわからないキャラを使って戦場に出かけているようだった。
ゲーム中に話しかけるのは怒られるような気がして、視線をそこから離してぼうっとシキの部屋を眺めていた。
シキの部屋の棚に置かれている写真立ての中で、わたしもシキも笑っていた。
幼稚園の卒園式のときに撮った写真だった。
わたしの部屋にもおんなじ物が飾ってある、わたしは何度も見返していても、シキは違うのだと思う。
この写真が置きっぱなしなことに、大した理由は残されていないんだと思う。