さよならは響かない
泣きそうになっていた。
見なければよかった、と少し後悔している。
けれど私はきっと、帰ったら自分の部屋にあるおんなじカバーを手に取ってしまうんだと思う。
記憶を振り返ることで、いまさら芽生えてしまった気持ちを幼馴染の頃の感情に戻してほしいといったところで、どうにもならないのに。
「……なにしてんの?」
夢中になっているのはわたしだった。
ゲームの音が途切れているのも気づかずに、ふたりとも楽しそうにランドセルをしょっている写真をみつめていた。
背後から聞こえた冷たい声に、ハッとして振り返れば何の意味も込められていないようなぶっきらぼうな顔が、わたしのほうを見ていた。
ベッドに座り込んで、のぞき込むように私の手元を見下ろす。
「…アルバム、みて、た」
「……勝手に、」
「…ごめん」
「…別に、いいけど」
冷めた目。
わたしがアルバムを見て感じた感情のことをなにひとつ、シキはわかってくれないんだと悟った瞬間だった。
それ以上シキは、アルバムに触れてこなかった。
シキは座ったまんま、壁にもたれかかってスマホの画面にもう一度向き合った。