さよならは響かない
シキはもう、わたしたちがふたりでなんの意味もなく笑いあったりすることを望んでない。
おんなじ感情を共有することも、思ったことも言いあうことも、全部。
よっぽど、見ないでと言われるほうがましだった。
シキの感情が少しでも揺れてくれたほうが、よかった。
溢れそうだった涙が、アルバムに落っこちた。
フィルムで守られたそこに、一滴、跡を残していた。
どうせ涙はいつまでも残らない。
シキのこころにも、どこにも、わたしの気持ちが入り込む隙間なんてない。
「……シキ、」
「なに、」
「シキ、」
ねえ、こっちを向いてよ。
そうやって言わなきゃ向いてくれない、
わたしはシキの言うことを黙って聴くけど、シキはいつも自分本位でしかない。
シキだけを見ていた。
視線は相変わらず、絡まなかった。
「…だから、なん、」
言い切る前に、シキの腕を力いっぱいに引っ張った。
手を引かれないと踏み入れないベッドに、自分から乗り込んだ。
スマホから、相変わらずの音が鳴っている。
それはシキの手元から簡単に落ちていく。
シキと目が合った。
わたしの顔を見て、シキは驚いた顔をした。
シキが口を開こうとする。
何にも言わせないまま、無理やり自分の唇をシキのそれに押し付けた。