さよならは響かない




温かいタオルと冷たいタオルを交互に当てれば、血行が良くなって腫れが少し収まるんだって。

ご飯を食べた後にそれを渡されて、「タオルは水で濡らしてレンジであっためるんだよ」なんて律義に説明までしてくれるからありがとうと言えば、背中をばし、とたたかれた。



「わたしもあんたくらい泣いたことあるからね」


数年前の自分を見ているみたいだと、記憶をたどるように目を細めて笑った。
同じように遡れば、高校生のころにお姉ちゃんが佐久にいと喧嘩をして大号泣していたのを思い出した。


難しいよね、コーコーセイって。
そういいながら苦笑いして、元気だしなよという励ましの言葉までくれたのちに、佐久にいのところに行ってくると上着を羽織ってお隣に出かけて行った。


相変わらず関係は良好らしい。
冬になればお互い就活が忙しくなってしまうから今を大切にするんだと言っていた。

ふたりとも大学も学んでいることも違うけど、離れたからこそ気づけたこともあるし、お互いのやりたいことを互いに尊重しあえている関係が、とてもうらやましくてほほえましいと思う。

幼馴染が恋人になったのだ、
佐久にいの知らないところはもうないよ、なんて呆れるような惚気を零していた。



結局、わたしが目をこんなに腫らしてまで泣いていた理由を、最後までお姉ちゃんは聞いてきたりしなかった。


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