さよならは響かない
醒めない夢、きみが落とした、弱音
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「おはようございます」
「うん、おはよ、みい」
先輩が指定した空き教室は図書室の横にあって、資料室のようなそこに使わなくなった机と椅子が一か所にまとめられていた。
そこから椅子を二つ持ってきて、わたしの前にひとつ差し出してくれる。
「体調、大丈夫?」
「…はい、全然もう元気です」
「そりゃよかった」
相変わらず先輩の笑顔は優しくて、それが余計に心苦しかった。
言葉を詰まらせて俯けば、ゆっくりでいいよ、って言葉が落とされた。
「…シキと、別れました」
「……そ、っか」
先輩と視線が絡む。
動揺しているようで、それから私が学校を休んだ理由を、何も言わずに察したんだと思う。
表情がこわばって、でもそれを私に見せないように無理矢理口角を上げているように見えた。
黙り込んだ私の言葉を待っているようだった。
「後悔、してる?」
沈黙を破ったのは先輩だった。
わたしは首を横に振って、それから言葉でもしてません、と伝えた。
「でも、俺のことは考えられない?」
「……っ、」
最後まで言わせてばっかりだ。
わたしが口を開こうとすれば、だいじょうぶ、と言われた。
「…みいのやさしさに付け込んでたのは俺のほうだよ」
びっくりして顔を上げれば、常盤先輩はわたしを庇うように眉を下げて笑った。