さよならは響かない
その言葉を、初めて心の中に受け入れた。
何度も、何度も伝えてくれた言葉を、初めて正面から受け取った。
わたしが泣くわけにはいかないのに、わたしの顔を見た常盤先輩は少し困ったように笑って、そっと指を伸ばし目尻をかり、と引っ搔いた。
これくらい許してね、
意地悪にそう笑っていた。
「今日くらい、俺のせいで泣いてくれればいいのに」
「……っ、」
「ふは、ダメでしょ、そこで泣いたら」
「…ひたち、せんぱい、」
「うん、」
「ありがとう、ございます、」
ごめんなさい、
ようやく言葉にすることができた言葉に、先輩はわかったようにうなずいて、それから、ありがとうと口にする。
「みいのこと好きになって、後悔してない」
泣いてくれてありがとう、
こくん、と頷いたわたしに先輩はもう一度優しく笑いかけて、それから予冷のチャイムが鳴って先に空き教室を出ていく。
貸してくれたハンカチは、俺が卒業するまでに返してくれればいいよ、と言ってくれた。
青色のハンカチ、この色ですら思い出してしまうのは、もうしょうがないことなのだろうか。
泣いてばっかりだ、もうずっと。
こんなに弱虫でいるわけにはいかないと、涙をぬぐって空き教室を出た。