さよならは響かない




あと5分でHRがはじまる。
教室にはいつも通りの日常が待っている。


梨可から来てるかとの確認のメッセージが来ていて、もうすぐ着くと返した。
廊下にいた人たちがぱたぱたと教室に駆けていく。



「──…っ、」



少し先、わたしのクラスの扉を開くシキの姿を見つけた。
だらしなくスクールバッグの片方を肩にかけて、それから、こっちを向いた。


シキがわたしを捉える。
距離は教室3つ分、先に逸らしたのはシキで、そのまま教室に入っていった。




これまでも、いままでも。

シキの学校での態度はちっとも変わらないくせに、今までで一番傷ついている自分がいた。

そうさせたのはわたしなのに、何度も金曜日の夜のことを思い出してしまう。




『シキの好きな人なんて聞きたくない』

『…、いわねえよ』




シキには好きな人がいるのかもしれない。

なによりも一番、それだけが心の中に残っていて、シキの好きな人がこの学校の中にいて、もし恋人になるのなら、わたしはそれに耐えられる自信がなかった。




聞きたくない、見たくもない。

それなのに、知りたい。

そんなこと、わがままでしかない。



< 70 / 84 >

この作品をシェア

pagetop