さよならは響かない
あと5分でHRがはじまる。
教室にはいつも通りの日常が待っている。
梨可から来てるかとの確認のメッセージが来ていて、もうすぐ着くと返した。
廊下にいた人たちがぱたぱたと教室に駆けていく。
「──…っ、」
少し先、わたしのクラスの扉を開くシキの姿を見つけた。
だらしなくスクールバッグの片方を肩にかけて、それから、こっちを向いた。
シキがわたしを捉える。
距離は教室3つ分、先に逸らしたのはシキで、そのまま教室に入っていった。
これまでも、いままでも。
シキの学校での態度はちっとも変わらないくせに、今までで一番傷ついている自分がいた。
そうさせたのはわたしなのに、何度も金曜日の夜のことを思い出してしまう。
『シキの好きな人なんて聞きたくない』
『…、いわねえよ』
シキには好きな人がいるのかもしれない。
なによりも一番、それだけが心の中に残っていて、シキの好きな人がこの学校の中にいて、もし恋人になるのなら、わたしはそれに耐えられる自信がなかった。
聞きたくない、見たくもない。
それなのに、知りたい。
そんなこと、わがままでしかない。