夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~
椿はへらへら笑いながら穏やかな口調で言った。その様子は哀しそうで儚げで無理して笑っているようにからっぽの笑顔で、無性に泣けてきた。

「どうして笑ってるの?無理しなくていんだよ。東山君はよく頑張ったんだから、泣いていんだよ」

私は椿の向かい側ではなく、隣に座りながら言った。椿はスマホをテーブルの上に置いて、そのまま真っ黒になっている画面を見つめている。

「俺はもう、充分泣いたよ。だからもう泣かない」

まるで自分の心に言い聞かせているように強く言われた。

確かに椿は私に祖父の自殺のことを話してくれた時に、嗚咽を洩らしながら泣いていた。でもそれで充分だって言うの?到底思えないよ。

「わかんないよ……。東山君がどうしてそんな辛い思いをしなきゃいけないの?母から虐待を受けると、感情のコントロールができなくなって、それで私達を殴っちゃうんだよね?それがなければ優しいのに……。私、わかんないよ」

瞳からは涙の雫がぽろぽろと零れてくる。それを必死に堪えながら声に出した。

椿は私の顔も見ず、ただ俯いている顔を青ざめていた。

「ごめん。話したくない。思い出したらまた、辛くなってしまうからさ。俺のために泣いてくれてありがと」

しばらくの沈黙が流れた後、椿は私の頭を撫でながらそう言った。

その手は太陽の温もりように優しくて温かい。そしてどこか儚い。いつかは私のそばからいなくなっちゃうような、そんな予感がする。
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