夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~
お祖父さんが信じられない顔をして、体を震わせているのも無理もない。

「いつになったら素直に聞いてくれるの?」

椿の母は声を荒げて椿の顔面を衝動のままに何度も殴る。息子だとしてもおかまいなしで、大人げない。鈍い音と椿の嗚咽と母の怒声が夜の居間を包んだ。

その間、私もお祖父さんも言葉を失って唖然としていた。止めに行くなどのことはよほど勇敢な人ではないとできないだろう。

やがてお祖父さんは恐怖のあまり逃げるように一つの音も出さずに家を出ていった。

母も椿もそんなことを知らずに、怒りと悲しみと絶望に身を委ねている。

私も見ているが耐えきれなくなって、ドアをすり抜けて外に逃げた。

なんとなく嫌な予感がしてお祖父さんを追いかける。年寄りのくせにすばやい足で向かっていた先は大木公園であった。

大木公園の象徴の大木はほのかに赤く、紅葉しつつある。夕焼けのように茜色で、鮮やかなグラデーションに染まっていた。

「どうしてじゃろか。息子が警察やっとるというのに、こんなに身近なある虐待に気づかんとは。じいちゃんも気づかてなかったけんど」

息子とは椿から見たら父のことだ。

お祖父さんは大木の枝に足をかけて上へ上へと登っていく。

もしかして……。
< 163 / 240 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop