夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~
危ないと止めようとしてももう遅い。呼ぼうとしても、私の声はお祖父さんに届くことはない。

お祖父さんはそのまま、十メートル上まで登って、ある一本の枝に腰かけた。その目は憔悴していて、今から自殺しようとしていることがわかった。

なぜ助けることもできずに自殺しようと自分だけ逃げようとしているのかはわからない。お祖父さんらしくない行動であった。

で、飛び降りるのかと思えば、着ていたベストのポケットから白い紙を取り出して、文字を綴り始めた。なんとも予想外の行動だ。おそらく遺書を書いているのだろう。

私はその姿を大木の根本から見あげることしかできなかった。夢の外____現実で十日ほど前に大木から落ちたことがあり、また落ちてしまうのではないかと恐怖を抱えていたからだ。

お祖父さんが遺書にどんな言葉を綴っているのか、私には当然わからない。ただ熱心に文字を綴っていくお祖父さんの姿しかうかがえなかった。

その遺書を書き終わったかと思えば、それを地面に捨てる。好奇心から私はその遺書を拾った。

やがてお祖父さんは、大木の枝から飛び降りて自殺した。それを尻目に私は、お祖父さんの遺書に目を通した。

『椿へ

お前がこの手紙を読んでる頃にはじいちゃんはとっくに、あの世へついているのかもしれないな。さよならも言わずにすまない。
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