夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~
お前には申し訳ないことをしてしまった。そのことはじいちゃんもよくわかっとる。だからこそ、じいちゃんはあの世へ行かなきゃならなんだ。大目に見てやってくれ。

じいちゃんはついさっき、衝撃的な光景を目にした。お前ならわかるだろ?髪を切ったことで息子の妻にお前が殴られているところだ。刃が出たままのカッターも投げつけられてたな。余程痛かったろう。一年前にじいちゃんが目にしてしまった、あの腕の無数の傷はこういうことじゃったんやな。

最初は夢や幻だと信じたかったんじゃが、状況が一方に変わらないことに、やがて現実のことだと理解した。本当であれば助けに行かなければならんのだが、いざ行こうとすると、足がすくんでな、動かなくなってしもたんじゃ。それどころか、大木が象徴の公園まで逃げてきてしもた。それで葛藤の末、今に至るというわけじゃ。

いいか、椿。じいちゃんは今から罪の償いをする。お前を助けてやれなかった、虐待に気づけれなかった、息子をあんな妻と結婚させてしまったことへのな。

実際、じいちゃんが死ねば息子は動かざるが得ないだろう。そして同時に虐待も解決する。この遺書を息子が読めばの話だけどな。じいちゃんはそう信じとる。

本当はお前の腕と心の傷が治るまでそばにいてやりたい。けれどな、罪の償いも大切じゃ。そこは許してやってくれ。

椿。お前は良い子に育った。嘘は下手だし、隠し事もするけれど、優しいところがちゃんとあった。

この前も、じいちゃんがやっとる店に三ヶ月後とに来る常連さん、ほれ、西園さんご夫婦じゃよ。「うちの娘と同い年ぐらいの子やのに、レジも敬語もしっかりしとった」とお褒めの言葉を頂いたよ。
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