夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~
外に出ると、雲ひとつないすきっりとした青空が私を出迎えた。太陽はギラギラと照りつけていて、夏らしさを感じる。近所に植えられていた桜には緑色の葉が生い茂り、その葉から雨の雫を一滴、ぽとりと落ちた。まるで梅雨の終わりを町に知らせているようだ。

五日ぶりに見るくっきりとした世界は趣があり、私は心を弾ませながら紡神社へと足を進めた。

住宅地を軽快に歩いて徒歩十分。あっという間に紡神社へと着いた。相変わらず入り口の大きな鳥居とは似合わない、かなり小さな寺がぽつんとある。なんだか物寂しい感じがして自然と手を合わせた。

「また、お会いしましたね」

後ろから声をかけられ、驚いて振り返る。

見ると石畳の地面の上に白一色のワンピースを着た成人女性がいた。

夢の中で会ったときには髪の色が暗闇と同化していて、長さもわかっていなかった。けれど、今はわかる。黒色に透き通った髪が腰まで長く伸びていた。

「遅くなりました。えっと、名前は……」

思えばまだ聞いていなかったことを思い出す。私の夢に入り込んできたぐらいだし、知っとくのが身のためなのだろう。

「名前など忘れてしまいました。なので……紡神社の紡ちゃんとでもお呼びください」

成人女性改め、紡ちゃんはそう言ってニコリと柔らかい笑みを私に向けた。

自身の名前を忘れた人がこの世に存在しているなんて、思ってもみなかったので驚く。でも呼び名をすぐに思い付いて、教えてくれたので安心感を覚えた。
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