夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~
ちょうど卵焼きの温めも終了した。そしてシチューも、もくもくと温かい湯気をたてている。

「だね。お皿だすよ」

食器棚から底が少し深い、スープ皿を取り出す。それに椿がおたまですくった、シチューを入れてくれる。その皿を両手で持つと、ほんのりした温かさが伝わってきた。

良い匂い。味も美味しそう。幽霊だから食べても何も感じないだろうけれど。

「さ、食べよ」

皿をテーブルに運び終えた椿が言う。それから椅子に座り、手を合わせた。

「いただきます」

スプーンで一口目をすくい、口に入れた途端、熱すぎたのか舌がやけどしそうになった。慌てて息を吹き掛け冷ます。それからもう一度、口にいれようと試みた。

一口大に切られたじゃがいもはホクホクしていて、ニンジンも柔らかい。茹でたブロッコリーもゴロゴロと入っていて、味がぎゅっとつまっている。

「……おいしい」

体の芯から温もれたような感覚に陥る。

味を感じたのは何日ぶりだろうか。たぶん17日ぶりだ。それより今朝、電話で咲結が言っていた想い人が椿だったなんて。

「東山君って、料理上手なんだね。腕の傷、染みたりしなかった?」

信じられない気持ちになりながらも、率直に浮かんできた疑問を投げ掛けてみる。
< 205 / 240 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop