夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~
偉そうな口調で、紡さんは言った。姿は見えないけれど、腰に両手でも当てているように聞こえてくる。

たぶん、椿のことを気遣ってるのだろうけれど人の心を覗くなんて、悪趣味でしかない。

辺りを見渡す中で、ある異変に気がついた。

さっきから不安そうな椿の顔、震えていた手も時が止まったかのように動かない。

その上、初夏特有の生ぬるい風も感じない。まるで私の周りだけ、時間が止まってないかのよう。

「時も止められるんですよ。椿様に怪しまれないよう、やってみました」

得意げにいい、紡さんはクスリと笑った。

この前も私に椿の過去の夢を見せてきたのだから、何でもやろうとすれば、この人はできてしまうのだな、と羨ましく思う。

それはそうと、紡さんはここまでして私に何を伝えに来たのだろう。予想しようとしても全く見当がつかない。

「さては、忘れてますね。その姿では立ち向かうことなどできませんよ」

言われて、ようやく思い出した。

私という存在。それは霊感がある人または、紡神社で私に会いたいと祈った人にしか見えないこと。そんな大事なことをすっかり忘れていた私は、馬鹿だと自己嫌悪に陥る。

でも今更引き返すわけにもいかない。椿も私もせっかく、覚悟まで決めてきたのだから。

「今から数分だけ、あなたの姿を霊感がない人、つまり普通の人にも見えるようにします」

「えっ……いいんですか?」
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