夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~
ひとつ、呼吸をする。

それからインターホンを押した。

ピンポーンと音が鳴り、奥から「はーい」と女の人の声が聞こえる。確かに聞き覚えがある、椿の母の声だ。

気合いをいれるように唾をごくりと飲む。

握られる手が温かい。まるで大丈夫、と囁いてくれているみたい。

恐怖は薄いまま。光はまだある。今なら、いける。立ち向かえる。

「どちら様……?」

ドアが開く音共に出てきたのはもちろん、椿の母。何やら慌てていた様子だ。琥珀色のテイシャツに、黒いジーンズを合わせている。ショートボブに整えられた髪は、椿と同じぐらいの濃さの栗色だ。

それから太い眉に大きな目、夢で見た時と全く変わりはなかった。

椿の母は椿を見るなり、眉間にシワを寄せ、歯を食い縛った。

「あんた、どこで道草食ってたのよ!」

声を荒げ、椿の母は椿の頬をペシンと叩いた。その顔は怒りに満ちている。

六日も息子が、行方不明とされていたんだ。黙っていられないのはわかる。これぐらいは、まだ想定範囲以内だ。

おそらく私の姿にはまだ気づいてないのだろう。意を決して椿を守るように前へ出た。

「すみません。私が連れ出しました」
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