夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~
「あんた、誰?」

ようやく私に気づいたらしい。険しい顔をこちらに向けている。この様子だと私の存在は、死ぬ前から知られてないらしい。なら、話は早い。

「西園胡桃といいます。東山君のクラスメイトです」

いや、クラスは違うけれど学年は同じだ。でも話を上手く進めるには、この方がよいと思う。

「この度は東山君を誘拐してしまい、すいません。虐待を受けていると聞きまして」

冷静が、装いやすい。

きっと手を握られている、ひだまりのような温かさのおかげだろう。だけど、油断は禁物だ。

「ったく、あんたっていう子は……」

吐き捨てるように呟いた椿の母は、ジーンズのポケットからカッターナイフを取り出した。その矛先は私ではなく、椿である。

危ない!

庇うようにさらに一歩、前に出る。それから口を開いた。

「落ち着いてください。お気持ちはわかります。でも、傷を負わせるのはこれ以上やめてくれませんか?自分の罪を重くしないためにも」

胸の奥から恐怖が込み上げ、目を瞑りながら言った。だが声はまだ、冷静を保てている。

それを聞いた椿の母はさらに眉間にシワを寄せたまま、カッターナイフを持つ手を震わせている。明らかに怯えがあるよう。
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