夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~
「えっ……?」

その名前、どこかで聞いたことがあるような……。

懐かしい響きがする。昨日もその前の日も一緒にいたような、そんな感じ。

「あと見舞いの子も来てたわ。咲結ちゃんっていう子。目覚めたって連絡しとくわね」

そう言って軽快な足取りをして、母さんは病室を飛び出して行った。


数日後。私は無事、病院から退院できた。

大木から落ちたというのに骨は一本も折れてなくて、傷跡すらもなかった。医者が「これは……神様の仕業かもしれんな」と驚きの声をあげていたほどだ。

母さんによると私は転落してから17日間、長い眠りについていたらしい。道理で声も出にくかったわけだ。

見舞いに来てくれた咲結とは「仁菜が自殺してから東山君にいじめられてさ、中二の時の罰があたったわーってことで、反省してます。ごめんなさい」なんていう仲直りをした。

どうやらその東山君は母から虐待を受けていたらしく、つい昨日事情聴取を終えたところみたい。

咲結と仁菜をいじめた理由は、その怒りや苦しみを紛らわしたかっただけ、なんだそうだ。

それでも咲結は「罪のない人に暴力を振るったり、ものを盗んだり、その挙げ句に自殺にまで追い詰めるのはいかん!」と椿にゲンコツをくらわしたらしい。

事件発覚はちょうど私が目覚める日の朝。警察である椿の父がパトロールをしていて、たまたま虐待の場に遭遇し、現行犯逮捕にあたったみたい。
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