夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~
椿はそう言いながら入り口に立て掛けてあった一本の黒い傘を持つ。

優しくしてもらってメガネも貰ったのに送ってくれるなんてさすがに申し訳ない。短い距離だし、道に迷うことはまずない。雨には濡れてしまうけれど。

「ありがとう。大丈夫だよ」

「濡れてしまうだろ?傘、入れてやる」

へ?今、入れてやると言った?

思わぬ言葉に開いた口がふさがらない。

一つの傘に二人で入るということだから、いわゆる相合傘だ。傘を忘れて仁菜に入れて貰ったことはあったけれど、それが異性となるときまずい。とはいえ、状況からして私に拒否権はなさそうだ。

「ありがと」

肩をすくめてからメガネ屋を出て、椿がさしてくれた傘の中に入る。歩く度に肩が触れ合ってドキマギしながらも、住宅街のブロック塀に挟まれた狭い道を進んで行く。

そんな中で椿が突然、傘を持っていない手の方で、私の手を握ってきたものだから胸がドキリと鳴った。こんなに距離が近いと心臓の音も聞こえてしまいそうだ。

「胡桃はさ、クラスではどう?」

椿は平然としながら、聞いてきた。その様子を見て強いなと思う。私じゃそんなこと簡単にはできない。昨日知り合ったばかりの人だから尚更だ。
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