夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~
とはいえ、少なからず即死していない可能性もある。確かめに行こうとはするけれど、恐怖で足が震えて動けそうにないし、真実を受け止める勇気など弱虫な私にはなかった。

膝を抱えて顔をうずめる。瞳からとめどなく溢れだしていた涙は、耳にかけていた茶色い淵のメガネを雫だらけにした。

そのメガネを外し、ポケットからティッシュを取り出してレンズを拭く。

このメガネは小四の時から使っているものだ。今では視力が少し悪くなってきているのか、遠くにあるものはぼやけて見える。となればかけている意味もないのかもしれない。

買い替えれずにいるのは両親が共働きで、おまけに今は海外出張で、なかなか家に帰ってこないからだ。私だけで行くという手段もあるのだが、買った店の名前も場所も忘れてしまったし、私自身人見知りな性格なので初対面の人は苦手なのだ。

屋上のドアが開く音がした。誰かの足音が近づいてくる。この状況からして考えれるのは警察か先生だ。そして私は仁菜を殺したのかと問いつめられるのだろう。

泣いている顔を見せたくなくてうずめたままでいると、

「泣いてんだろ。とりあえず落ち着け。話はそれからだ」

若者らしい穏やかで低い声が私の耳に響いてきた。感じからして先生でも警察でもなさそうだ。同級生の可能性もあるが、聞いたことのない声なのでそれはないだろう。

私はさすがに顔だけは合わした方がいいだろうとゆっくりと声がした方を向いた。
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