夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~
小五からは火を使わせてもらうようになり、炒めものやカレー、パスタやうどんという簡単なものから作っていた。こげることも度々あったが、一ヶ月もすればそんなことはなくなっていた。

それから何年も経った高一の私では野菜を切る手つきが慣れているのはもちろん、蒸し料理やチャーハン、煮魚という簡単そうにみえて意外と難しい料理も当たり前のように作れていた。

自分で作った料理は誰かが作ってくれたものよりも不思議と何倍もおいしくて忘れられなくて、そのおかげでいつしかのめり込んでいた。だけど味覚を感じられなくなってしまった今では料理を作る楽しさも意味もない。だから作らなくなってしまった。

スマホで計っていたカップラーメン用の三分タイマーが鳴った音でふと我に返る。ラーメンができた記しだ。すぐに蓋をとり、しばらく冷ます。白くて熱そうな湯気がもくもくと立ち上っていた。

しばらくして食べ始める。やはり味はしない。これが本当にカップラーメンなのかわからなくなるほどだ。とはいえ、辛い経験をしたんだ。仕方ないことだろう。

具材であるえびはぷりっとしていて、歯応えがあった。他にもメンマやネギが入っていて、味は楽しめないけれど歯応えは楽しめるので何も感じないよりかはましだと思った。

時計を見ればそろそろ行かなければいけない時間だ。大急ぎで残りのラーメンを食べ終え、制服に腕を通す。少しブカブカしてるけれど、百五十五という私の身長もまだ伸びるかもしれないと期待しながら三ヶ月前に買ったものだ。

洗面所でボブの髪を整え、歯磨きをして顔を洗う。それからお気に入りの深緑色の傘を持って外に出た。

途端に心臓が跳ねた。目の前に濃い青色の傘をさして学ランに腕を通している椿がいたからだ。相変わらず長い前髪で目をすっぽりと隠している。
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