夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~
「おはよ、胡桃」

「お、おはよう。待ってくれてたの?」

「ああ。一緒に行こうぜ」

ミステリアスで穏やかで切なげな笑みを浮かべながらも椿は言う。不気味に感じたけれども一人で行くのは心細いと思っていたので都合が良い。仁菜への罪悪感が生まれながらもこくりと頷いた。

「そういや、胡桃って両親とかいねぇの?」

唐突に椿は聞いてきた。たぶん、庭に車が止まっているところを見たことがないからだろう。

「いるよ。今は海外出張中だけどね」

「それって……大丈夫なのかよ?」

高校生で一人暮らしをしているのはこの町ではなかなかいない。椿が心配そうな口調になるのも文句のつけようがない状況だ。

「昔からこうなの。だからもう慣れっこなんだ」

私はそう言いながら親にあまり会えない寂しさを胸の奥に閉じ込めた。それを聞いた椿は「ふーん」と不満そうな声を洩らしながらも、羨ましそうに顔をこちらに向けている。

「いいよなぁ。一人暮らしって。誰にも邪魔されないって最高じゃん」

確かに家族がいる家はさわがしくて居心地が悪いと感じる人もいる。どうやらそれが癒しの時間だと思っている私とは正反対のようだ。

「けれどさ……」
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