夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~
初めて本を手にとった時、ずっしりとした感覚が気に入った。それと物語の印象から鮮やかに彩られる表紙。一つの出来事から始まる現実ではあり得なさそうなストーリー。その全てが私の心を癒していった。時には勇気づけてくれたり、励まされたりというように感情が刺激を受ける度に夢中になっていた。

家には四十冊もの本がある。その中でも今読んでいるのは何度も読み返している大切な本だ。

表紙にはたったいま地上に誕生したかのようにみずみずしくきらびやかに躍動する海と、果てしなく広がっている青空を背景に、高校生ぐらいの少年が晴れ晴れとした表情で仁王立ちをしている姿が描かれている。この少年が主人公なのだ。

私はその表紙の雰囲気が好みで数年前に書店でこの本を衝動買いした。『君のためなら、僕は』という強い力が込められているようなタイトルだ。

物語は主人公の友達が突然不登校になるところから始まる。その理由がいじめだったと知った主人公はまっすぐで強く優しい心を持ちながら、出会っていく仲間と共に立ち向かっていくという青春ストーリーだ。

十分という休み時間は本が大好きな私にとってあっという間で何分あっても足りないぐらいだった。

チャイムが鳴り、それと同時にざわざわとしていた教室は徐々に落ち着きを取り戻し始めた。

そんな中でコツコツとヒールの音を鳴らしながら国語の先生が入ってくる。ちなみにこのクラスの担任でもある。もちろんおとなっぽい容姿の女性なのだけれど、それとは裏腹に性格は天然なのである。そのギャップで生徒からは人気の先生だ。

「先生は今日、重大なミスをおかしてしまいました」

高らかに宣言するように担任は言った。きっと何か忘れ物でもしたのだろう。
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