夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~
「授業の道具を家に忘れてきてしまったのです」

担任はへらへらと笑いながらそう言う。教室にはどっと笑い声に包まれた。

「相変わらず変わらないなー」

「まあ、そこがいんだけどね」

クラスの女子がそう口々に言っている。私はその様子を穏やかな笑みを浮かべながら眺めていた。

担任は静かにと咳払いをする。

「ということで、今日は先生の夢みたいな本当の話で持ちきりにさせてもらいます」

担任はおとなっぽい容姿からは合わない張り切っていた口調で言った。

この担任は幼い頃、事故に遭ってそれから幽霊が見えるようになったらしい。その影響であり得なさそうな話をよく体験するんだそう。

生徒達は興味津々に担任が話出すのを待っている。それは私も同様だ。

「昔、私の友達の母親がね、病気で他界したの」

呟くように担任は話始めた。ざわめいていた教室も静寂に包まれる。

「その友達は寂しさのあまり、母親の後を追うようにして自殺したわ」

悲しい目をしながら話す担任をよそに、私はその友達と似ているななんてことを思っていた。

仁菜を失った今では生きている意味すらもないように思える。

笑い合いながら過ごした日々も鮮明に覚えているけれど、遠い思い出のように感じられる。

私は後を追うようにして自殺をしたかったのだけれど、あの大木の枝と一緒に落ちたって死ぬことはできなかった。
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