夢の終わり、交わした約束を胸に~紡~
幼い頃、母に言われた人は簡単には死ねないということを痛感させられたようだった。

あれから自殺しようと思ったことはない。それよりもなんだか胸騒ぎがしていて落ち着かないのだ。きっと椿と出会い、その優しさに触れたからだろう。

「私はその友達にせめてもう一度会ってお別れを言いたいと紡神社に祈りに行ったの」

少しの沈黙の後、担任が言った言葉ではっと我に返る。

私ももう一度仁菜に会いたいと紡神社に祈りに行った。でもそんな夢のような話、叶えられるわけ、ないよね。

「そしたらね、その友達に会うことが出来ちゃったの」

「えー!?」

担任の驚きの発言で生徒達は度肝を抜かれたように衝撃の声をあげた。当の私も開いた口が塞がらない状態となっている。

そんな話がこの世に存在していいのだろうか。頭の中では疑問で溢れるばかりだ。たぶん、担任の目には事故に遭った時から幽霊が見えているからだろう。

「そのおかげで無事お別れを言えて笑顔でその子は天国へ行ったわ。本当、すごい話でしょ?」

担任はその頃を懐かしむような穏やかな顔で私達に問いかけてきた。生徒達は頷き、温かい拍手を贈る。

そのあとは女子達が担任に質問攻めをしていて、あっという間に授業は終わった。それと同時に私はお弁当として持ってきた菓子パンを手に教室を出た。騒然としている廊下を歩き、階段を降り、静寂に包まれた校舎裏へと向かう。
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