癒やしましょう。この針で!!~トリップしても根性で乗り切ります。
ウィルと愛来が朝食を食べ終えるとそれを見計らったかのように部屋の扉がノックされ一人の男性が姿を現した。
「愛来様食事中に大変申し訳ございません。殿下そろそろ政務に戻りませんと書類の束が大変なことになっていますよ」
「アロンわかっている……。愛来こいつはアロン・ミカリルだ。俺の右腕として使えている」
「愛来様お初にお目にかかります。アロン・ミカリルと申します」
綺麗にお辞儀をしたアロンは肩まである青みがかった紺色の髪を一つにまとめている。目元は切れ長の一重で眼鏡をかけたいた。一見クールそうなアロンは愛来を見つめ、ふっと微笑んで見せた。
うわっ!!格好いい。出来る大人の男性って感じ。
愛来の頬が一瞬赤くなる。
それを見たウィルが苦虫を噛み潰したような顔をしながら、椅子から立ち上がると愛来を自分の後ろへと隠した。独占欲丸出しのウィルの様子を目を丸くしながら見つめたアロンは面白い物を見たとクククっと笑った。
「それでは殿下、私は先に執務室の方へ行ってまゆえ。お早くお願いいたします」
アロンは綺麗な所作で一礼すると部屋を出て行った。
ウィルはアロンが部屋から出て行くのを確認し愛来に振り返って呟いた。
「愛来はああいうのが好みなのか?」
ウィルの呟くような声は愛来の耳には届かない。
ウィルどうしたのかしら、怖い顔をして……。
「愛来……俺はこれから仕事に行く。リミルと一緒なら城の中を歩いても大丈夫だから自由に過ごしてくれ」
そう言うとウィルは背を向けて部屋を出て行こうとしていた。愛来は無意識にウィルのシャツの裾に手を伸ばした。シャツを引っ張られたウィルは愛来に振り返ると目を見開いた。愛来は寂しそうに眉を寄せ大きな瞳に薄らと涙を溜め見上げていた。
振り返ったウィルが微動だにしないため、ハッと我に返りウィルのシャツを握っていた手を離した。
「ご……ごめんなさい」
私ったら何をやっているのかしら……。
この世界にやって来て初めて出会った人。まるで生まれたての雛が初めて見た物を親と思い込みついて行く刷り込みのように……。
離れるのが怖い……。
寂しい……。
何でだろう、私はこんなに寂しがり屋では無かったはず。
子供では無いのだからと脳内で自分を自制しようとするも、それでも離れたくないと思ってしまう。
愛来は握り絞めていた両手の力を抜くと、体の中の酸素を一気に吐き出しニコリと笑った。
「えっと……ウィル行ってらっしゃい」
気丈に振る舞う愛来の姿。
異世界からやって来て不安で寂しいはずなのにそれを言葉にせず、グッと耐えている愛来の可愛らしさにウィルは何とも言えない気持ちになっていた。
これが庇護欲と言うものなのか?か弱い者を守ってやりたいという気持ち……。
ウィルは思わず愛来を抱き寄せ強く抱きしめると頭をなでていた。
「大丈夫だ。仕事が終わったらすぐに戻ってくるから」
「うん。待ってます」
愛来は自分を抱きしめてくれる大きくて優しい手に心がほかほかと温かくなるのを感じていた。
わーー。何だろうドキドキする。
愛来はウィルの腕の中でジッとしていることが出来ず、もぞもぞと体を動かすとウィルを上目遣いで見上げた。
愛来の可愛らしい上目遣いにウィルは握り絞めた右手で口を押さえ、目元を赤く染めると「ぐっ」とうめき声を上げていた。
「あらあら、ウィル殿下はずいぶん愛来様に懐柔されてますわね」
二人の様子を見守っていたリミルが口を挟んだ。
ひーー!!リミルさん、いつからそこに。
「さあ殿下、愛来様と離れたくないのは分かりますが、さっさと執務室の方へお行き下さい。アロン様がお待ちですよ」
「ああ、分かっている。リミル、愛来のこと頼んだぞ」
「お任せ下さい」
ウィルはもう一度愛来を抱きしめると部屋から出ていった。