癒やしましょう。この針で!!~トリップしても根性で乗り切ります。
この世界で私は子供?!


 *


 愛来が異世界にやって来て二週間が過ぎていた。この世界にやって来て数日は日常生活をおくるのも大変だった。この世界は魔法の世界。お風呂を沸かすのも、トイレを流すのも全て魔法。愛来は針をいとも簡単に出せたため、他の魔法もチョロいと思っていた……。

 だがしかし、生活に必要な魔法を愛来は使えなかったのだ。

 せめてトイレ流す水の魔法だけでもどうにかならないかと思っていたとき、ウィルが魔法石なるものを使って水を生成してくれた。トイレはこれでどうにかなったものの、他のことはウィルかリミルを頼らないと生活できなかった。


 *


 今日は久しぶりに王家の皆さんがそろうということで、夕飯に招かれていた。

 王家の皆さんはとても忙しい。王様や王妃様は各国の使者との謁見や、地方の貴族達の相談に乗ったりと夜遅くまで仕事を行っている。

 ウィルも政務の仕事や魔法騎士団の稽古など毎日忙しくしているため、全員のスケジュールが合うのは大変まれなことなのだとリミルが教えてくれた。

 家族が全員そろうのに二週間……。

 ウィルは小さい頃寂しい思いとかしなかったのかな?

 何故か胸がチクリと痛んだ。


 痛んだ胸を押さえていると、リミルが晩餐用のドレスをクローゼットから取り出して愛来の前に持ってきた。

「愛来様、今日はこちらのドレスにしましょうか」

 そう言って持ってきたのは黄色の布地にオレンジ色のレースをあしらた物で、沢山のギャザーを使って裾が広がるようになっている可愛らしいドレス。

 こんなドレスは七五三以来だと初めてこの世界でドレスを着た時思った。

 日本人の愛来の顔にはこの世界のドレスは似合わないと思ったが、リミルは可愛い、可愛いと毎日違うドレスを着せては嬉しそうに髪を結ってくれた。

 ウィルも可愛いと毎日言っては、子供のように愛来を抱き上げてくれて、何だかお父さんのようだなと思っていた。

 それをリミルに話したところ、それを絶対に殿下の前では言わないよう言われた。

 何でだろう?


 そうこうしているうちに晩餐の準備は整っていった。時刻は十八時部屋にノック音が響き渡る。リミルは戸を開けるとそこに立っていたのはウィルだった。

 サラサラの金色の髪に翡翠色の美しい瞳、白地に金色の刺繍を施した軍服を模した服に沢山の勲章が胸に着いていた。

 まさに王子様という出で立ちのウィルの姿に愛来の目は釘付けとなった。

 ウィルも可愛らしい愛来のドレス姿に目を細める。

「お姫様あなたのエスコート出来ることを嬉しく思います」

 そう言って右膝をつき愛来の右手を取ると右手の甲にキスを落とした。キザな発言と動作だが王子のウィルがやると様になる。少し茶化した物言いは子供扱いされているような気もするが、おとぎ話に出てくる王子様みたいでドキドキと愛来の胸を高鳴らせた。

 ぽーっとウィルに見惚れて動けなくなってしまったがハッと我に返った。私はお姫様なんかじゃ無い。勘違いも甚だしい。毎日お姫様扱いされているため本来の自分を忘れそうになってしまう。自分がモブだという事実を……。自分は何の取り柄も無いモブだ。お姫様なんてとんでもない話だ。

 ウィルはゆっくりと立ち上がると愛来の手を取ったままエスコートし、晩餐が行われる広間へとやって来た。中に入ると王や王妃それに元国王のラドーナさんが椅子に座って待っていてくれた。

 王族の方々を待たせてしまうなんて。顔を青くしながら愛来は挨拶をした。

 リミルに教えてもらった淑女のお辞儀と挨拶を……。

 愛来はウィルから手を離すとそっと膝を折り頭を下げた。これがなかなか大変で、太股と腹筋がプルプルとし始める。

 そして挨拶……。

「本日は王族の皆様におかれましては……」

 挨拶を始めた愛来を止めたのは王であるガルドだった。


「よいよい。堅苦しい挨拶は必要ないぞ。今日は家族だけの晩餐だ。さあ座りなさい」

「お待たせしてしまい、すみませんでした」

 頭を下げる愛来にラドーナが笑いながら手を振った。

「よいよい。わしらは少し話すことがあったのでな、早くにここへ集まっただけじゃ、愛来が気にすることはないのいのじゃ」


 そっか……良かった。でも次晩餐に呼ばれるときはもう少し早く出ようと心に決めた。

 ガルド王が給仕係に手を上げ合図をすると、料理が運び込まれてきた。冷たくなってしまった料理達。初めて愛来は冷たくなった料理を見たときは驚いた。しかし今では納得している。王族の身を守るため毒味などのチェックが行われるため料理は冷めてしまうのだ。しかしここで登場するのが料理長だ。テーブルの上に手をかざし呪文を唱える、するとたちまち料理が出来たての状態に早変わり。何度見ても感動してしまう。

「わーー。すごい、何度見ても感動しちゃいます」

 愛来の褒め言葉に料理長は頬を染めながら頭を下げ出て行った。





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