癒やしましょう。この針で!!~トリップしても根性で乗り切ります。
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昨日の晩餐後から愛来の周りは慌ただしくなっていた。まずクローゼットの中身が全て変わってしまったのだ。何がどう変わったのかはよく分からないが、リミルさんがそう言っていた。
今までリミルさんが教えてくれていた勉強は家庭教師がつくことになった。
そして一番変わったのはウィルの態度だ。
晩餐が終わり部屋の前まで送ってもらうと、ウィルはそっと愛来の右手を自分の口まで持って行くと指先に口づけた。それは部屋を出るときにウィルがした子供のお姫様にした挨拶では無く、大人の女性にするものだった。
ウィルに口づけられた指先から全身へと熱が伝わっていくように体がしびれ赤く染まっていく。そんな愛来の反応に目を細めウィルが指先から唇を離すと耳元で優しく囁いた。
「愛来おやすみの挨拶をしてもいいか?」
うわっーー。声だけでもイケメン。
ウィルが耳元で囁くだけで更に体が熱を上げていく。
挨拶ぐらい全然いいけど?
そう思い声を出そうとしても何故か心臓がバクバクと音を立てるだけで声にならないため、愛来はコクリと頷いた。
愛来が可愛らしく頷いたのを確認したウィルは左腕で愛来を引き寄せると、右手で愛来の顎をくいっと持ち上げ顔を近づけるとキスをした。
チュッというリップ音がして愛来はウィルにキスをされたのだと気づいた。口を押さえながらウィルを見上げると、ウィルは愛来の頭をなで「おやすみ」と言い早足に自室へと戻っていった。
ウィルのこの挨拶と言う名のキスはこれから毎日、毎日続くことになるのだが、このときの愛来は知るよしも無かった。
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愛来は昨夜のことを思い出し両手で顔を隠し頬を赤く染めもだえていると、リミルがドレスを持ってやって来た。
「今日のドレスはこちらにいたしましょうか?」
それは落ち着いた色合いのターコイズブルーのドレスだった。
「わーー。綺麗、素敵なドレス」
愛来はリミルの手を借りて用意してもらったドレスに袖を通した。ターコイズブルーのドレスは青のレースと銀糸の刺繍が施された大人っぽいドレスだった。
もしかして、私が二十三歳だと分かってドレスが全部入れ替わったって事?
じゃあ今まで着ていたのって、子供用だったんじゃ……。
そうなると……。
「リミルさん達も私が十三歳ぐらいだと思ってたの?」
ドレスの裾などを整えていたリミル手がピタリと止まり、目を泳がせている。
「そっ、それは……そんな事より髪型も変えましょう。もっと素敵になりますよ。それに何度も申しておりますが私のことはリミルとお呼び下さい」
「んーー。呼び捨てか……そう言えばリミルさんは今何歳なの?」
「……」
ピクリと肩をふるわせたリミルが沈黙したため愛来は不思議そうにリミルの綺麗な空色の瞳をのぞき込んだ。するとリミルの瞳がせわしないほどに左右に動いている。
「わっ、私は二十一歳です……」
「年下ーーーー!!!!」
嘘でしょう!!
しかも二歳も年下とか……。
仕事も出来るし、落ち着いているから絶対年上だと思ってた。
恐るべし異世界人。
カオス!!
「だから愛来様は私のことはリミルとお呼び下さい。さあ、髪を結いますからこちらに座って下さい」
リミルに促され椅子に座るとリミルは愛来の髪を梳き複雑な三つ編みをまとめていく、少し後れ毛を残せば子供っぽさは消え、グッと大人っぽくなった。
「リミルありがとう。これで少しは大人っぽく見られるかしら?」
「はい。もう完璧にすてきな淑女ですわ」