癒やしましょう。この針で!!~トリップしても根性で乗り切ります。
ウィルは愛来が外で仕事をすると言い出したとき、大反対した。しかし愛来はライデン治療院で働くことを強く希望して引かなかった。しかもライデン治療院まで歩いて行くと言うし……。いくら治安の良い城下町といえど、一人で歩かせるわけにはいかない。城の馬車を使えば良いと言ったが、毎日豪華な馬車出勤は嫌だと却下され。それなら町を行き交う馬車で出勤すればいいと言う話になったが、ガギル・ドラコを連れた愛来が馬車に乗り込むと馬車内がパニックになり大変な事になってしまった。結局愛来の言うとおり歩きで出勤することとなったのだが……。実はこっそり護衛を三人愛来には内緒で付けているが、それぐらいは許してほしいしいと思う。
「それにしても二日も寝ていたんだお腹がすいただろう?」
「えぇーー!!私また二日も眠っていたんですか?」
前にもこんなことがあった、確かあの時は初めて魔法を使ったときだ。あの時も二日眠ってしまった。魔力を使いすぎると魔力を回復するために眠ってしまうのかしら?
「どんなに声をかけても起きる気配が無く心配した。皆とても心配していたぞ」
沢山の人達に迷惑をかけたのだろうと愛来は再びしょんぼりすると愛来の頭をウィルがなでた。
「余りにも起きないから、宗次郎が昔言っていたことを実行したんだ」
「お祖父ちゃんは何て?」
「愛来は眠り姫とか言う、眠ったままの姫が王子のキスで目を覚ます物語が好きだったと聞いた。キスをすれば愛来も目を覚ますと思ったんだ」
そう言うと爽やかな笑顔を愛来に見せた。
めっちゃ笑ってる。
何の下心も無いですよって顔してる。
「それは私が小さい頃の話です。それに私はお姫様ではないのでキスしても起きないですよ」
「そんなことはない。現に愛来は王子のキスで目を覚ました」
それは、そうなんだけど……。
何だろうな、この感じ。
かみあわない……。
もういいや、お腹も空いたし起きよう。
愛来はベッドから起き上がろうと体を起こしてみるが、貧血を起こしたときのように頭がクラクラして、またベッドに倒れ込みそうになった所を、後ろからウィルに支えられた。
後ろから愛来をすっぽりと包み込むこの体勢は、なかなかに恥ずかしい。
愛来は恥ずかしさから両膝を抱え込み小さく、小さくなると両膝に顔を埋めた。そうするとうなじが丸見えになってしまうのだが、ウィルはそれを見逃さない。
恥ずかしさから桃色に染まった細い首にウィルがキスを落としてくる。愛来の体は寒くもないのに震え出す。
「ふっ……可愛らしい。震えているな」
ひぇーー!!
誰か助けて!!
その時ノックも無しに勢いよく扉が開いた。
「愛来様!!」
そう言って勢いよく部屋の中に入ってきたのは目に涙をためたリミルと、リミルを追いかけてきただろうアロンだった。