癒やしましょう。この針で!!~トリップしても根性で乗り切ります。
異世界まったりライフ?
そんなこんなで愛来がこの異世界へやって来て半年が経っていた。近隣諸国との関係は相変わらず良好で、戦争も無く、ガギル・ドラコであるギルがいる為か魔物が襲ってくる事も無い。
小説では異世界にトリップした人間には使命があったりするけどそれも無く、お城で暮らしているため衣食住に困ることも無い。
針を使った仕事は皆に喜んでもらえて、聖女様なんて呼ばれて……。
異世界まったりライフ
キターーーーーーーー!!!!
って感じよ。
全てが順風満帆だった。
そんなある日、一人の少年がライデン治療院の扉を叩いた。少年は不安そうにライデン治療院の中を見回している。愛来は少年に近づくと優しく声をかけた。
「こんにちはここはライデン治療院です。何かお困りのことがありましたか?」
愛来の問いに少年は俯いたまま顔を上げようとしない。
何かあったのかしら?
この子は怪我も病気もなさそうだけど……。
質問を変えてみようかしら。
「きみ名前は?」
少し間をおいてから答えが返ってきた。
「……リドニー」
「リド二ーね。年は?」
「……七歳」
レイニーちゃんと同じ年か。
「そうだ私美味しいアメを持ってるの。こっちで食べましょう」
愛来はリド二ーを椅子に座らせると瓶からあめ玉を取り出し、リド二ーに手渡した。リド二ーを嬉しそうにあめ玉を口に放り込むと手で頬を押さえながら、へにゃりと笑った。
アメ美味しかったんだ。
少しは緊張がほぐれたかな?
今日の予約はもう入ってないし、急患が来ない限り暇だから、休憩にしよう。
愛来はお茶を入れると椅子に腰を下ろした。
「それでリド二ーは何しにここへ来たの?」
「……」
困ったな……。
どうしたら話してくれるのだろうかと考えていると、リド二ーが口を開いた。
「……お姉ちゃんは……聖女様?」
「周りはそう呼んでるかな……」
愛来は、はぐらかしながら、そう答えた。さすがに自分で「はい。そうです。私が聖女です」とは言えない。
「お願いします聖女様……ぼくのおじいちゃんを……おじいちゃんを助けて」
リド二ーの瞳に涙がたまり始めていた。