癒やしましょう。この針で!!~トリップしても根性で乗り切ります。
赤くなったり、青くなったりとコロコロと表情を変える愛来の姿にウィルが「ぷっ」と吹き出した。
「クククッ……。愛来お前は面白いな」
「えっ……名前」
あれ?私名前言ったっけ?
首を傾げる愛来をウィルがジッと見つめている。
「違ったか?」
「い……、いえ。合ってます。でも私、名前言いましたっけ?」
ウィルが不敵な笑みを浮かべながら愛来の手をとるとお城へと向かって歩き出した。
「お前は有名人なんだよ」
「はぁーー?」
この見知らぬ土地で何を言っているのだと、愛来は間抜けな声を上げてしまう。
私が有名人ってどういうこと?
ウィルはそれ以上は何も言わず愛来と城の中を歩いて行く。お城の中は高そうな壺や絵画などが並べられていて、緊張が高まっていくが、愛来はウィルの観察をする。
良かった。歩き方、大分いいみたい。体のゆがみも大分改善されている。
愛来がジッとウイルの歩き方を見つめていると、突然ウィルが振り返った。
「愛来の針はすごいな体が軽い。こんなに調子がいいのは久しぶりだ」
ウィルが愛来の右手を握り絞め「さあ、着いたよ」と愛来をウィルの横に立たせた。
二人の目の前には豪華で重厚な扉があり、その両サイドには騎士の二人が扉を守るように立っていた。ウィルが騎士の二人に声をかけると、騎士の一人が大きな声を上げた。
「ウィル・ラ・ロイデン殿下より、謁見の申し込みです」
愛来はその様子を固唾んで見守っていた。
この扉の向こうにいる人って、もしかして……。
しばらくして目の前の扉が開かれ、ウィルのエスコートによって愛来は前に進んでいく。
うわっーー。
すごい。
扉の向こう側はとても広く、ダンスパーティーが開けるのではと思うほどの広さがあり、天井ではシャンデリアがキラキラと輝いていた。
赤い絨毯の上を転ばないようにゆっくりと歩いて行くと、広間の奥に一段高くなった場所があっり、そこには大きく豪華な椅子に一人の男性が座っていた。その隣には男性の座っていた物より一回り小さい椅子があり女性も座っている。
愛来は心の中で思った。
ぜったいにあの二人は王様と王妃様だと。
ウィルが二人の前で膝を折り挨拶を始めた。
「父上、母上、急な謁見申し訳ありません。庭で出会った娘を連れて参りました」
愛来はウィルの隣で礼儀作法について思い出していた。確か高貴な人の前に出るときは頭を下げ目を合わせてはいけないんだったかしら?相手に話しかけるまでこちらからは話してはいけない。前に読んだファンタジー小説にそんなことが書いてあったはず。
愛来は頭を下げウィルに習って膝を折って王様の言葉を待った。
「庭で出会ったとは?娘、面を上げよ」
王様の言葉に愛来はピクリと肩を震わせると、恐る恐るといった様子で頭を上げた。
むむむっと王様は愛来を見つめ、まさかといった様子で目を丸くし声を上げた。
「そなた、愛来殿か?!!!」
「ひえっーー!!どうしてわかるんですか?」
思わず声を出してしまった愛来は両手で口を押さえた。
しまった!!
しゃべっていいとも言われていないのに声を出しちゃった。
慌てふためく愛来。しかし愛来の思考は廊下を走ってきた人物の登場でプツリと止まってしまっう。
バンッと扉が開き振り返った愛来の目に飛び込んできたのは……。
まっ……まさか……。
「お……お祖父ちゃん!!」
こんな所にいるはずのないお祖父ちゃんが目の前にいる。そっと愛来は祖父らしき人物に触れてみる。
生きてる。
余りの衝撃で声を出すことも忘れていた愛来は祖父らしき人物に抱きつき涙を流した。気丈に
振る舞っていた愛来だったが本当は心細かった。怖かった。不安だった。全ての気持ちが涙となってあふれ出した。
「お祖父ちゃん生きてたの?会いたかったよー。ここは何処なの?どうしたら帰れるの?何が何だかわからないし。えーーん」
「おーおー大変じゃったのー愛来殿」
ん?
あれ?
愛来殿?