癒やしましょう。この針で!!~トリップしても根性で乗り切ります。
ガルド王の話は愛来にとって最悪なものだった。
この世界ファーディア・セレスティーには四つの月がある。最近この四つの月が近づいているということ。それは年に何回か起こる現象のため、それだけなら特に心配することはない。だが、月の位置関係に少しずつ、ずれが生じているらしい。そのずれはどんどん大きくなり、現在の異常気象を引き起こしているという。そして月を元の位置に戻す方法が一つだけあると王は言った。
「王様その方法って何なんですか?」
「……」
四つの月を元に戻す方法を話さないガルド王に痺れを切らした愛来は王からトレントに目を移した。トレントは愛来の瞳を真っすぐ見つめるとゆっくりと頷いた。
「私が話しましょう。四つの月を正常な位置に戻すには膨大な量の魔力が必要です。この国……いや、この世界の魔導士、魔法使い達が集まったとしても足りないほど膨大な魔力が必要です。そんな膨大な魔力をどうしたら集められるのかと考えあぐねいていた時、一つの文献を見つけました……」
トレントの説明はこうだ。
五百年前のこと一人の少女がこの世界にやってきた。その直後四つの月が近づき、ずれが生じた。当時の魔導士たちは少女を元の世界に返すための魔方陣を作成、魔方陣が発動すると膨大な量の魔力が発生し月は元の位置へと戻ったという。
「……」
愛来は絶句した。
元の世界に帰る……。
今更……。
全く嬉しくなどない。
でも、ここで話を逸らしてはいけない。
「それで、私の帰る日は五日後なんですね」
ガルド王とトレントが目を見開ていた。やけに冷静に愛来は淡々と話を切り出していく。
「このことを私が知っているということはウィルには話さないでください。それから王様に二つお願いがあるのですがいいですか?」
「あっ……ああ、何でも言ってくれ」