癒やしましょう。この針で!!~トリップしても根性で乗り切ります。
「愛来……」
涙に気づいてほしくない愛来は湖に向かって走り出すと、ざぶざぶと湖の中へと入って行った。水温はそこまで冷たくないし、水位は膝までで気持ちいい。驚いたウィルも愛来を追って湖の中へと入ってきた。
背を向ける愛来を後ろからウィルは抱きしめる。
「……愛来は明日のこと知っていたんだな」
ウィルの震える声。
「……」
答えられなかった。
口に出すのが怖かった私はコクリと頷いた。
「すまない愛来……」
かすれた声が耳元から聞こえてくる。泣きそうな声。振り向いたらきっと辛そうな顔をしているんだろうな。
ごめんね。
ウィル。
「ねえ、ウィルはこの世界がファーディア・セレスティーが好き?私はこの世界にやってきて、日は浅いけれど、ファーディア・セレスティーがこの国アルステッド王国が大好きになったよ。この世界が守れるなら私は……」
愛来はウィルの方へ振り向くと、とびっきりの笑顔で笑った。
「私がみんなを守れるなんて最高だね!!」
真っすぐに私を見ていたウィルの瞳から涙がツーっと一筋零れ落ちている。こんなに悲しそうに、私のために泣いてくれているのに……きれいだなって、見惚れてしまう。
美しい恋人を愛来は忘れないようにと目に焼き付ける。
「……くっ、愛来」
ウィルは奥歯を噛みしめ苦しそうに顔を歪めると、愛来の名前を呼んだ。
「そんなに辛そうな顔をしないで」
愛来はウィルの頬に触れると唇を寄せた。ウィルもそれにこたえるように唇を重ねる。日が落ち、辺りが暗くなり始めても二人は唇を離そうとはしなかった。大好きなこの人を忘れないように心に刻み込むように。
二人はベッドの上にいた。ポロリと涙を流す愛来の上にウィルが重なり合う。
「愛来……愛来……愛来……」
ウィルは愛しい人の名前を呼び続けた。
「ウィル……ウィル……大好きよ」
目を閉じていた愛来の頬の上にポタポタとウィルの涙が落ちてくる。
「また泣いてる。ウィルは泣き虫ですね」
「そう言う愛来だって泣いている」
ウィルは愛来の瞳から流れ出る涙に口を寄せ吸い取っていく。ウィルが何度吸い取っても止まることのない涙。
「ウィル……お願いがあるの」
「んっ、何だ?」
「私がこの世界からいなくなったら……私のことは忘れてください。そして幸せになってください。あなたはこの国を守っていかなければならない人だから」
「無理だ!!そんなこと無理に決まっている。こんな世界消えてもいい。俺は愛来と共に生きていたい」
愛来はウィルの頬を叩いた。
「次期国王となる人間がそんなことを言ってはなりません。あなたはこの国を……この世界を壊したいのですか?……でも私のために、そう言ってくれることはとても嬉しいです」
微笑む愛来の望みを俺は叶えてやりたいと思うが、これだけは無理だと思う。この目の前にいる愛しい存在を忘れる?そんなことできるわけがない。
「愛来……」