癒やしましょう。この針で!!~トリップしても根性で乗り切ります。
運命の日~引き裂かれる二人
風がそよそよと愛来の頬を撫でる。気持ちのいい風を感じながら愛来は目を覚ました。
目の前には愛おしそうにこちらを見つめるウィルを顔。
「「おはよう」」
二人の声が重なり、微笑みあった。
残された時間は数時間。
穏やかに過ごしたい。
愛来は両手を伸ばしウィルを求める。離したくない、離れたくないと。
それでも、無情にも時間は過ぎていく。
そろそろお城へ戻らなければ。
皆が心配していることだろう。
愛来が帰らなければこの世界ファーディア・セレスティーは消滅してしまうのだから。
「ウィル……そろそろ時間だね。帰ろうか」
渋るウィルの手を引き愛来とウィルはルドーの背に乗り城へと向かった。
*
愛来は今、謁見の間で膝を折り頭を下げていた。王の言葉を聞き、それに従うため。
「聖女愛来、この世界を救う聖女よ。そなたの思いをわしは……いや、ファーディア・セレスティーの全ての民は忘れることはないだろう。これから魔方陣にてそなたを元の世界へと帰還させる」
「承知いたしました」
愛来は綺麗なカーテシー後、ゆっくりと頭をあげた。
何かが吹っ切れたように微笑む愛来の姿に皆が目を奪われた。
それは本物の聖女の姿だった。
皆を思いウィルを思い、自分の気持ちを隠しも、それでも前に進もうとする。聡明で美しく強い聖女。その姿に皆が涙し膝を折り頭を下げた。
「聖女様……」
「何という……私たちのために」
「皆さんそんなに泣かないでください。私は死ぬわけではないのです。元の世界に帰るだけですから……皆さんに出会えて、私は幸せでした。ありがとうございました」
愛来は謁見の間を出ると外に出た。そこには魔法協会会長のトレントが魔方陣の準備のため指示を飛ばしていた。
中庭の広く空いた地面に魔方陣はほぼ出来上がっているようで、暗闇の中ボウッと光り輝いている。四つの月が出たら魔方陣を発動させる予定だ。それまでの少しの時間、愛来は一人一人に別れの挨拶と感謝を述べた。
リミルは泣き崩れ、王や王妃、ラドーナも涙を流していた。
愛来は腕の中でキューキューと鳴くギルを泣き崩れるリミルに預けた。リミルは何とか頷きギルを受け取ると「ギル様のお世話はおまかせくださいと」ギルと私を抱きしめた。
皆が泣き崩れる中、愛来は王に近づき、小さな声で「お願いします」と、頭を下げた。愛来のその言葉が何を意味しているのかを王はすぐに気づき、頷いて見せると愛来は安心したように笑った。