癒やしましょう。この針で!!~トリップしても根性で乗り切ります。
* ウィルside
「この異常気象の原因は月のせいだというのか?月を元の位置に戻すには愛来を元の世界に戻すと……ふざけるな!!」
ウィルの怒号が謁見の間に響き渡る。
ドンっという音とともに部屋がガタガタと揺れだした。ガルド王はウィルを落ち着かせるよう、一喝する。
「ウィル!!静まれ!!」
なんで……なんでだ。
これから愛来を幸せにすると誓ったばかりなのに。
他に方法はないのか?トレントは他に方法はないと首を横の振るばかり。
俺はそれから、政務の合間を縫いどうしたら愛来を帰さずに、この世界を救う方法がないかを探し始めた。しかしそんな方法は見つからず、時間だけが過ぎていく。
くそっくそっくそっ!!!!
何故だ。他に方法はないのか。
このセリフを何度口にしただろうか。
時間がない。
時間がないんだ!!
悔しさからか瞳に溜まった涙が頬を伝い落ちる。
「くそっ!!」
残された時間は一週間を切っていた。
*
時は無情にも過ぎていく。
残された時間も残り二日となった時、俺は王に呼び出された。今日一日は休みにすると……愛来とゆっくり過ごせと。
俺は力なく頷いた。
これだけ探したのだ。
奇跡は起きない。起こらない……。
それなら最後の時間を愛来と二人で過ごしたい。
外に出ると愛来が嬉しそうに手を振っている。
最近の俺は働きすぎだからピクニックに出かけようと誘う愛来は楽しそうだ。
ルドーの背に乗り俺たちは王家の私有地である湖までやってきた。最後に過ごすならここだと俺は思っていた。
着いたとたん、愛来が今日は沢山笑おう。笑うことは大切なんだと言い出した。その言葉は、今日は泣きませんと宣言しているようだった。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
夕方になり湖面がオレンジ色に染まり始めると、愛来が景色の美しさに目を細め一筋の涙が零れ落ちた。
愛来は湖に向かって走り出すとざぶざぶと水しぶきを上げて入っていった。その背中が微かに震えていることに気づき、俺はここで始めて、愛来も明日何が起こるのかを知っているのだと気づいた。
どんなに思い悩んだんだろうか。
俺には一言も言わずに……。
俺が何も言わないから。
俺は愛来の背中を抱きしめた。
「……愛来は明日のこと知っていたんだな」
声が震えてうまく出せない。
「……」
愛来は何も答えなかった。
「すまない愛来……」
謝ることしかできない俺に愛来はいった。とびっきりの笑顔で。
「私がみんなを守れるなんて最高だね」と。
俺は何も言えなかった、ただ涙を流すことしかできなかった。愛しい君が帰るのを見ていることしかできない。
「……くっ、愛来」
俺がよっほど辛そうな顔をしていたのだろう。愛来は悲しそうに眉を寄せ俺の頬に触れると、辛そうな顔をするなと泣き笑いの表情をみせ唇を寄せてきた。俺もそれにこたえ唇を重ねた。