癒やしましょう。この針で!!~トリップしても根性で乗り切ります。

 夜は幸せな時間だった。

 あんなに泣くまいと、我慢していた愛来が涙を流していた。

「ウィル……ウィル……」と何度も俺の名前を呼んでくる。好きだ、愛していると。俺も何度も答えた、俺も愛来を愛していると。

 そうしていると涙が自然と流れ出す。

 そんな俺に愛来は自分のことは忘れてくれと言い出した。幸せになれと。

 愛来のいない世界で幸せになる?

「無理だ!!そんなこと無理に決まっている。こんな世界消えてもいい。俺は愛来と共に生きたい」

 こんな世界消えてもいいと本気で思った。

 愛来がいないこんな世界はいらない、消えてしまえばいいと。


 バチンと愛来が俺の頬を叩いていた。


 たいして痛みは無いが衝撃はすごかった。

 そして愛来は俺を叱ったんだ。

 次期国王になる人間がそんなことを言ってはいけないと、それでも自分のためにそう言ってくれたことがうれしいと微笑む愛来。


 愛おしいきみを忘れることができようか?

 そんなことができるわけもない。

 愛来を守ると約束したのに。


 宗次郎あなたとの約束も守れない。


 愛来は元の世界に帰ったら俺のことは忘れてしまうのか?

 愛来の隣に俺ではない誰かが立つのか?

 ふざけるな!!

 そんなことは許さない。

 愛来は……愛来は俺のものだ。

 誰にも譲る気などない。

 俺は初めて神に願い、そして恨んだ。

 愛来を連れて行かないでくれ、ずっと待ち望んでいた。異世界にいる少女に恋焦がれ、やっと手に入れたのに……なんで。

 俺の手をすり抜けていく愛しい人を求めてウィルの手は宙をかく。



 待て!!行くな!!



 行かないでくれ。



 戻ってきてくれ。



 俺の元から離れるな。



 心臓がえぐられる、壊れそうだ。



 苦しい。



 愛来……愛している。



 愛している。



 愛している。







 夢?眠っていたのか……。

 ウィルは涙を流していた。

 愛来がいなくなった世界で、俺は生きていけるのか。

 俺は隣で眠っている愛来を見つめた。

 今日が別れの日。





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