癒やしましょう。この針で!!~トリップしても根性で乗り切ります。

 愛来は、ぱっと顔を上げ、抱きついていた人物を見つめた。

「お祖父ちゃん?」

「すまない愛来殿、わしは愛来殿の祖父である宗次郎ではない」

「……」

 祖父だと思っていた人物をポカンと見つめて愛来は固まった。

 そんな愛来の頭を優しくなでながら老人はすまなそうに眉を寄せる。

「わしはこの国の元国王でラドーナ・ラ・ロイデン。そなたの祖父である宗次郎にはとても世話になった」

 どういうこと?

 さっぱり分からない。

 そう言えばお祖父ちゃんのお葬式をした記憶が無い。突然お祖父ちゃんがいなくなって、しばらくすると、お母さんがお祖父ちゃんが亡くなって言ったんだ。

「ほっほっほっ。宗次郎も突然この国やって来たのじゃ。姿がわしにそっくりで、驚いたのを良く覚えておる。愛来殿の話も聞いておったぞ。かわいい孫娘がいると……」

「……聞いていたって言うことは、お祖父ちゃんは……」

 ラドーナは悲しそうに一度目を伏せると愛来を見つめた。

「五年前に亡くなった。その時は国民も悲しんだ。宗次郎の功績はとても大きかったからな」

「お祖父ちゃんはこの国で何をしたのですか?」

 ラドーナは昔を懐かしむように天井を仰ぎ話した。

「針という物を使って沢山も人々を癒やしておったよ。人体に関する知識も豊富で皆から賢者様と呼ばれておった」

 お祖父ちゃんこっちの世界でも沢山の人達を針で助けてたんだ。

 会いたかったなー。

 ん?あれ?

 この世界にも針があるの?

 愛来が持ってきた針は全部で五本、ウィルに五本使ってしまったため使用できる針はもう無い。お祖父ちゃんが針を使っていたなら、この世界にも針はあるはず。

「あの……。この世界にも針があるんですか?あるなら何処で購入すればいいんですか?」

 謁見の間にいた人々の顔がキョトンと愛来を見つめていた。

 何?

 みんなのこの反応?

「あー愛来殿の世界には魔法が存在しないと宗次郎が言っていたな」

「魔法!!魔法があるんですか?」

 愛来は魔法という言葉に目をキラキラと輝かせ、体を前のめりにして興奮した。ラドーナは愛来の反応を嬉しそうに見つめ魔法について説明を始める。

「この世界には魔法が存在する。生活に必要な小さな魔法はこの世界の民なら誰でも使うことが出来る。しかし、大きな力となると鍛錬や修行といった努力が必要で魔方陣を描かなければならない物も多くなるので勉強も必要となるのじゃ」

 魔法を使うことが簡単では無いことを知り、ガクリと肩を落とした愛来を見たラドーナは微笑んだ。

「愛来殿は宗次郎の孫娘じゃ。もしかしたら……」

 ラドーナが何かを言いかけた時、ガタリと後ろから何かが落ちるような、倒れるような音が聞こえてきた。後ろに視線を向けるとそこには一人の女性が倒れていた。周りにいた人達は騒然とし、女性に駆け寄った。

「おい。どうした?」

 一番に駆け寄った男性が声をかけるも反応が無い。

 愛来もすぐさま女性に駆け寄り症状を見て声をかけた。

「大丈夫ですか?」

 しばらくして女性がゆっくりと目を開け体を起こそうとしたが、また倒れてしまう。

「大丈夫ですか?起き上がらなくていいですよ。話をすることは出来ますか?出来るようなら症状を教えて下さい」

「話をすることなら出来ます。申し訳ございません。今朝から調子が悪くて、目眩が……うっ……吐き気も……」

 目眩と吐き気。

 愛来は頭の中で症状を探っていく。

 もしかして……。

 愛来はポーチから針を取り出そうとして動きを止めた。

 ダメだ。

 さっき針はすべて使ってしまった。残りは無い、どうしたらいいの。

 そう言えばラドーナさんが魔法の話してたけど誰か針を出せないかしら?愛来は思いきって聞いてみた。

「すいませんが、誰か針を魔法で出すことは出来ませんか?」

 謁見の間にいた人々が顔を見合わせ首を捻る。そもそも針を見たことの無い人達ばかりのため、針を想像することも出来ないのだ。

 やっぱり難しいんだ……。

 肩を落とし落ち込む愛来に声をかけたのはウィルだった。

「愛来がやってみたらどうだ?」

「えっ……やるって、魔法を?どうやって?」

 ウィルは愛来の両手を握り絞めると簡単な魔法の使い方を説明してくれた。

「まずは針を頭の中で思い描くんだ。それを形にするため元素の魔方陣を描くんだが……とりあえずやってみたらどうだ?」

 何ともアバウトな説明……。

 でも、やってみなければ始まらない。

 魔法も根性でどうにかなるかも?

 ウィルが愛来を握り絞めていた手をもう一度ギュッと握るとそっと手を離し、コクリと頷いた。ウィルの瞳がお前なら出来ると言っているようだ。愛来はウィルの翡翠の瞳を見つめると頷き返した。

「「……」」

 誰も何も言わない。謁見の間はしんと静まりかえっている。愛来は鍼灸師の資格を取ってから毎日の様に使用していた針を思い描いていく。そして神に祈るように両手の手のひらを合わせ組むと心の中で願った。



お願い。針を!!!!








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