癒やしましょう。この針で!!~トリップしても根性で乗り切ります。
*
愛来は病院のベッドの上で目を覚ました。全てが白で統一された部屋は独特な薬品の匂いがした。
戻ってきた?
頭がスッキリしない。まだ夢の中にいるような感覚だ。もしかしたら今までのことは全て夢だったのかもしれない、そう思おうとした。
しかし愛来の薬指には翡翠色の石がはめ込まれた指輪があった。
夢じゃない……。
愛来の瞳から涙がとめどなく流れ出す。それを止めるすべはなかった。
ウィル会いたいよ。
会いたいよ。
先ほど別れたばかりなのに、会いたくて仕方がない。
もう会うことのできないその人の名を愛来は呼んだ。
「っ……ウィル……ウィル」
顔を伏せ愛しい人の名前を呼び続ける愛来。
そこに聞こえるはずのない声が聞こえてくる。
「愛来……」
優しいその響きに愛来が顔を上げると、そこにはここにいるはずのないウィルが立っていた。愛来は目の前の現実が信じられなくて、自分のほっぺたをつねってみた。
痛い……。
夢じゃない?
ウィルが愛来の頬に手で触れると温かさが伝わってきた。
本物……どうして……。
そう思ったが今はそんなことはどうでもよかった。
この人に触れたい。
愛来とウィルは唇を重ね合わせた。始めはついばむ様に、ゆっくりと二人の存在を確かめ合うように、それから苦しいほどのキスを交わす。そこでゴホンッと誰かの咳払いが聞こえてきた。
二人が唇を離しそちらに顔を向けると、そこには見知った人たちが勢ぞろいしていて、手で目を覆っているが隙間からこちらを覗いているのがまるわかりの状況だった。
「……」
キャーー!!
いやーー!!
愛来は心の中で叫び赤面する。思わずウィルの胸へと飛び込み顔を隠すと、イヤイヤと顔を横に振って恥ずかしがった。そんな可愛らしい反応をする愛来をウィルは宝物のように優しく抱きしめた。
見ていられないほど気持ちが駄々洩れの二人の状況に、待ったをかけたのは魔法協会会長のトレントだった。
「愛来様お目覚めになられて本当に良かった。なかなかお目覚めになられないので心配しておりました。体に異常などはございませんか?」
「あっ、はい。特に異常は感じられません。少し頭がボーっとしているのと、だるさはありますけど大丈夫です」
「そうですか。そのだるさは愛来様の魔力をぎりぎりまで放出した結果なので時間が経てば元に戻るでしょう」
そう言ってトレントが愛来の前で跪くと頭を垂れた。
「愛来様、この世界をファーディア・セレスティーを救っていただきありがとうございました」
その言葉に部屋にいた全ての人が頭を下げていた。