癒やしましょう。この針で!!~トリップしても根性で乗り切ります。
すると愛来の組んでいた手のひらが熱くなり光があふれ出していく。
うわっーー!!
なに……何?
手の中が熱い。
手のひらの熱さに耐えられなくなった愛来は組んでいた手をそっと開いた。するとそこには金色に光り輝く針が数本現れた。
これが魔法!!
愛来は目を見開き瞳を輝かせた。
「やったーー!!割と簡単に出来ちゃった」
愛来ののんきな声をかき消す様に周りにいた人々がざわめきだす。
「おおーーなんと!!」
「無詠唱で魔方陣も無く召喚したぞ」
愛来はそんな声を無視して女性の手や足に触れていく。
やっぱり……。
「今から針を刺していきますね。髪の毛より細い針なので痛みは無いと思いますが動くと危険なのでジッとしていて下さい」
愛来は女性の手や足に針をうっていった。
これで良し。
「少しこれで時間をおきます。誰かこの人に掛ける毛布か何かを持ってきてもらえますか?」
「あっ私が持って参ります」
倒れた女性と同じ服を着ていた女性が走り出すとすぐに膝掛けを持って戻ってきた。
「こちらでよろしいですか」
「ありがとうございます」
愛来は受け摂った膝掛けを倒れた女性に掛けると、十分待った。
そろそろかしら。
「それでは針を抜いていきますね」
愛来は女性に刺さっていた手の針を抜いた。すると持っていた針は空気に溶け込むように一瞬で消えてしまう。
あれれっ??消えちゃった。
驚きつつも愛来は全ての針を抜いていった。
「はい。これでお終いです。ゆっくり起き上がってみて下さい」
そう言われた女性は、ゆっくりと起き上がり恐る恐る目を開いた。
「あら……目眩がありません。吐き気もありませんし、スッキリしています」
愛来はほっと胸を撫で下ろすと女性の手をとり立ち上がらせた。
良かった。大丈夫そうね、立ってもふらつかないみたい。
立ち上がった女性は「ありがとうございました」とガバッと深く頭を下げた。その動作に愛来は焦ってしまう。
「あっ余り頭を急に動かさないで下さい。また目眩が起こる可能性がありますから」
「はい。分かりました」
女性はまたゆっくりと頭を下げるとにっこりと微笑んだ。その様子を見ていたウィルも嬉しそうに微笑んでいた。
「うまくいったな。今日は疲れただろう部屋を用意させるから一緒に行こう」
「なんじゃ、もう行ってしまうのか?寂しいのう」
寂しそうに眉を寄せるラドーナの姿が祖父の姿と重なる。
「あっ……ラドーナ様あの……またお祖父ちゃんのこと聞きたいのですが」
「ああ。そうじゃろう。わしも宗次郎の話がしたい。今度はお茶でもしながらゆっくり語ろうかのう。それと、愛来殿わしのことはおじいちゃんと読んでくれんかのう?」
「えっ……いえ……それは……」
先ほどは知らなかったとはいえ、さすがに元国王様をおじいちゃん呼ばわりするのは、まずいんじゃ……。
愛来はどうしたらよいのか迷っていると現国王様が話しに割って入ってくれた。
「愛来殿、珍しい父の願いだ聞き入れてもらえるか?」
「でもよろしいんですか?元国王様をおじいちゃんだなんて……」
「わしがゆるす。わしはおじいちゃんと呼ばれたい。さあ愛来殿呼んでおくれ」
「えっと……それなら私のことも愛来と呼んで下さい。その……おじいちゃん」
ラドーナが嬉しそうに目を細め「愛来」と呼ぶと愛来も嬉しそうに「おじいちゃん」と答え、「愛来」「おじいちゃん」の言葉の掛け合いがしばらく続いた。それはラブラブなカップルが、いつまでも名前を呼び合うかのようで、周りにいた人々は微笑ましく見守っていたのだが、ここに一人それが面白くない人物が……。
「おい。その辺で終わりにしたらどうだ?」
ウィル怒ってる?
「あらあら、ウィルったらそんなに怒らないの。男の嫉妬はみっともないわよ」
それまで静かに見守っていた王妃フィーナ・ハイナ・ロイデンが口を開いた。
「ところで愛来さん私のことはお母さんと呼んでもいいのですよ」
などと言い出し、それを聞いた国王もそれなら私のこともお父さんと呼んで欲しいと言い、周りの人々が驚愕した。
いやいや、それはさすがにダメだろう。
それに周りの人達の反応……驚きすぎて、魚みたいに口ぱくぱくさせてるよ。
何だろうこの状況
カオス!!
愛来は王様と王妃様の言葉を素直に聞き入れることは出来ず、丁重にお断りした。それを聞いた、王と王妃は寂しそうにしていた、がしかし王妃が遠くない未来で母と呼んでくれる日が来るでしょうと王と話をしていたことを愛来は知らなかった。