癒やしましょう。この針で!!~トリップしても根性で乗り切ります。


「失礼します。殿下、愛来様はお目覚めですか?」

 そう言ったのは愛来が針をうった女性だった。

 この人がリミルさん?

「愛来様その節はありがとうございました。あれから目眩を起こすことも無く仕事をすることができています……」

 そう言ったリミルは途中で言葉を止めて、ウィルを睨めつける。

「ところで殿下、これはどういう状況ですか?愛来様のベッドでどうして殿下が休まれているのですか……お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「……」

 リミルに睨まれているがウィルはなにも言わず、目を逸らした。そんなウィルの態度にいらつきながらもリミルは愛来に視線を向けると柔らかく微笑んだ。

 この二人ってどういう関係なんだろう?

「愛来様、私はリミル・ロイストと申します。本日より愛来様の専属侍女となりました。よろしくお願いします」

 専属侍女と言う聞き慣れない言葉に首を傾げる愛来にリミルが微笑みながら近づいてくる。

「身の回りのお世話をする者のことですよ。さあウィル殿下、愛来様から離れて下さい」

 リミルは布団を剥がすと愛来の腰を持ちヒョイッと抱き上げ、絨毯が敷き詰められた床に立たせた。余りにも自然な流れだったため愛来はされるがままになっていたがリミルの腕力に驚いていた。

 あんなに細い腕なのに大人の私をいとも簡単に持ち上げるなんて。

 愛来の身長は155センチと小柄な体型だ。だからといって女性が簡単に持ち上げられる重さではないはずだ。愛来がリミルに視線を向けるとその目線の高さに驚いてしまった。

「リミルさん背が高い」

「えっ……いえ、私は平均身長の168センチですよ」

 平均身長が168センチ!!手足の長いリミルは赤茶色の髪を一つにまとめていて、瞳はややつり上がった猫目に綺麗なアクアマリンのような空色の瞳だった。モデル級のリミルみたいな人達がこの世界には沢山いると言うことなの?


 そう言えばウィルもかなり背が高い。168センチのリミルより遙かに大きい。

「ウィルは身長何センチなの?」

「ん?俺は190センチだ」

 どおりで隣で話をしているだけで首が痛くなると思っていたが……。

 なんて羨ましい。


 背の低い愛来は元々背が低いことがコンプレックスだった。この世界に来てそれが更なるコンプレックスになるとは……。

 その身長5センチずつ私にちょうだい。心の中で叫び、ズーンッと体に鉛が落ちてきたかの様に重くなった。

 愛来の様子を見ていたリミルがコロコロと笑いながらお腹が空いただろうと朝食の準備を始めてくれた。

「さあ愛来様、この国の食事を摂れば愛来様も大きくなりますわ」

「ほんと!!」

 そう声に出したもののそんなことがあるわけが無い。私は二十三歳成長期はとうに過ぎている。ガクリと項垂れる愛来をリミルは椅子に座らせると朝食をお皿に取り分けてくれた。

 目の前に並ぶ色とりどりの野菜や、卵オムレツ、ベーコンといった愛来が今まで日本で食べていた物と余り変わらない食事が目の前にあり、うれしさに愛来の頬がピンクに染まる。

「宗次郎が、好んで食していた朝食にしたが愛来は食べられそうか?」

「はい。私の好きな物ばかりです」

 ウィルの気遣いが今とてもありがたい。ここで見たこともない異世界料理を出されたらきっと口にすることは出来なかったと思う。


お腹がペコペコの愛来はホークに手を伸ばしサラダを口に運ぶ、パリパリと瑞々しい葉が音立てた。
見たことのない葉っぱだけど美味しい。ドレッシングも少し酸味があって食べやすい。


美味しそうに食事を摂る愛来を愛おしそうに見つめながらウィルもオムレツを口に運んだ。



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