君の音に近づきたい
それから、お父さんとお母さんの待つ、駅近くのカフェへと向かった。
「春華ー!」
店内へと続くドアを開けると、窓際の席に座っているお母さんが目に入る。
その向かいには、お父さんが座っていた。
お母さんの隣に腰掛けた。
二人は既にコーヒーを飲んでいて、私もアイスティーを注文する。
「――それにしても、春華、すごく制服似合ってる。可愛い」
お母さんが改めて私を見つめて、またもその目をうるうるとさせていた。
「私の高校生の頃と全然違う。キラキラしてる!」
「どうして、お母さんがそんなに興奮してるの。それに、さっき講堂で泣いてたでしょ」
隣に座るお母さんに、つい溜息をつく。
「だって、春華が頑張ってたの知ってるし。どうしても合格したいって気持ちも知ってたし。これまでのいろんな場面を思い出したらね……。本当によく頑張ったよね。努力して、ちゃんと希望を叶えて……我が子とは思えない。お母さん、誇らしいよ。春華、天才だよ。ピアノの天才!」
「天才って……。そんなわけないじゃん」
また、泣き始めてる――。
私のお母さんは、ちょっと不思議なところがある。
「あの学校の生徒の親は、何かしら音楽に関わっている人が多いんだろう? 親がピアノ教師だったり、演奏家だったり。その点、うちの家系には音楽に素養のある人間は誰一人いないからな。お父さんもお母さんも、音楽関係はド素人だ」
斜め前に座るお父さんが、私に言った。
「両親が音楽家とか、確かにそいういう子多いけど、そうじゃない子もいるから。結局最後は、本人の実力次第だし」
お父さんの言う通り、私の両親は音楽にはまったく関係のない職業の人たちで。楽器を習ったことすらないらしい。でも、私がこの道に進むことになって、両親なりにいろいろ勉強してくれていることは知っている。
二人とも、まったく楽譜が読めない状態だったのに、今では音楽の基本的知識は身に着けている。
「周りの生徒たちもみんな優秀だろう。大変だろうけど、頑張りなさい」
「うん」
涙を拭う人の横で、お父さんとそんな真面目な話をする。