君の音に近づきたい

放課後が近付くにつれて、明らかに体調が悪くなって行った。
練習疲れと、寝不足のせいかな。
食欲もわかなかったけれど、お弁当は頑張って全部食べた。

これでご飯まで食べなかったら、いよいよもたないような気がしたからだ。

本番まであと二週間。絶対に休むわけには行かない。
愛の挨拶は、かなりいい具合に仕上がっている。
やはり、リベルタンゴが不安なままだった。
自分の部分だけなら、弾けるようになった。でも、これを二人で合わせる練習がメインになっている。
いかに呼吸を合わせるか。同じノリで、同じように呼吸をして。
同じテンポを心の中で刻む。お互いの息が合っていないと、途端にばらばらに聴こえてしまうのだ。

いつもより鞄が重く感じる。
地下にある練習室へと、階段を一段一段下りて行く。

地下の一番奥にある01教室の傍までなんとかたどり着いた時、ふっと身体から力が抜けた。
自分ですら何がどうなったのか分からない。床に座り込む。
やばいかも――そう他人事のように思っていた時だった。

「大丈夫?」

切羽詰まったような声がして、おもむろに振り向く。
驚いたような顔をして近付いて来る林君の姿があった。

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