君の音に近づきたい
「大丈夫、大丈夫。ちょっとフラッとしちゃっただけだから」
「それ、全然大丈夫じゃないでしょ? 一体、二宮さんは君にどれだけ厳しい練習させてたの。今日は、練習休んだ方がいいんじゃない?」
私の肩に手を回し、林君が私に顔を近付ける。その表情は、心から心配しいてるみたいなものだった。
「本当に、大したことないから。倒れたわけじゃないし。少し休めば大丈夫――」
「何してんだ」
背後から聞こえた鋭い声に、ハッとする。
その声の方に顔を向けると、どこか怒ったような顔をした二宮さんがいた。
「あ、あの。桐谷さん、体調悪いみたいで。今日の練習は休ませた方がいいと思うんです――」
「あんた、誰?」
「僕は、桐谷さんのクラスメイトです。彼女、朝からずっと体調悪そうだったから、それで心配で――」
林君が私の肩を抱きながら、二宮さんを見上げる。
「林君、私は、本当に大丈夫だから」
二人に挟まれ、いたたまれない気分になって来て、慌てて立ち上がろうとした。
「――それはどうも。こっから先は俺がいるから、君はいいよ。こいつの面倒は俺がみるから」
何故か、二宮さんが私を抱き寄せた。しっかりと私の腰を支えている。
何故、何故、何故――?
「桐谷、大丈夫か? 保健室行く?」
「え、あ、いえ、大丈夫です――」
二宮さんが私に顔を寄せ、聞いたこともないような優しい声で気遣って来る。
体調なんかよりずっと、この状況の方が大変なことになっているんですけど――!
「じゃあ、とりあえず練習室で休もう。ありがとう、林君」
「えっ、桐谷さん!」
林君の声なんて無視して、誰にも有無を言わさず、二宮さんは私の腰を抱いたまま01教室に入りパタンと扉を閉じた。