君の音に近づきたい
30分ほどで自宅にタクシーは到着した。
二宮さんも一緒にタクシーから降りた。
「お金も払いたいし、もしよければ、うちに寄って行きませんか?」
タクシーが行ってしまって、家の前の道路で二人だけになる。
少し緊張しつつ、そう二宮さんにたずねた。
「いや、いいよ。桐谷が体調悪いから送って来たんだ。それなのに俺がいたんじゃ休めないだろ。いいから、早く入れよ」
「でも――」
「あれ、春華……?」
自宅の門柱の前で二宮さんと向き合っていると、玄関のドアが開いた。
「お母さん!」
呑気な顔で現れたお母さんの表情が、瞬時に変わる。
「え……、え? もしかして、二宮奏君? そうだよね? 実物の方が、ずっとイケメン――」
「ちょ、ちょっと落ち着いて!」
お母さんの性格のことをすっかり忘れていた。二宮さんに会わせたりなんかしたら、絶対に必要以上に興奮する――!
「初めまして。いつも春華さんにはお世話になってます」
こっちもこっちで、貴公子モードに変わっている。あの、乙女心を溶かす甘い笑みを浮かべながらお母さんに挨拶をしていた。