君の音に近づきたい
6 友達として大切なひと ♩
「愛の挨拶かー。この曲いいよね。二宮さんのイメージにぴったりだ」
校内に貼られた『聖ヶ丘祭』のポスターを見て、香取さんが言った。
「あれ、でも……2曲目、未定ってどういうこと?」
並んで立ってそのポスターを見ていた。香取さんが、私に顔を向ける。
「秘密にしてるんだ」
「秘密? サプライズ?」
「そう!」
リベルタンゴの曲名は明かさないことにした。
二宮さんのアレンジで、超攻撃的で超激しいリベルタンゴになっている。
つまり、貴公子の演奏するものとは程遠い。
だから、秘密。
「――桐谷さん、元気になったみたいで良かった」
二人並んで立つ私たちのところに、林君がやって来た。
「ゴメンね、心配かけちゃって。一日ぐっすり寝たらすっかり元気!」
笑顔で応えるも、林君の表情はどこか浮かない。
「それなら良かった。凄く心配したから……。あ、あのさ――」
「ん?」
「桐谷さんは、二宮さんと、」
そこまで言って、途切れる。でもすぐに思い切ったように林君が言った。
「付き合ってるの?」
「え? な、何言ってるのよ! そんなわけないよ!」
林君までお母さんみたいなこと言わないで欲しい。
「でも、昨日の二宮さんは、まるで――」
林君が唇を噛みしめる。そんな林君が、不思議でならない。
どうしてそんな顔をしているのか――。
「林君?」
「ごめん。何でもない」
そう言って、林君は走り出した。
「ちょ、ちょっと」
「……ふーん。そういうことね。なるほど」
引き留めようとする私に、香取さんが意味深な顔をする。
「何が、そういうことなの? 林君、どうしたんだろう」
「桐谷さんも、罪な女ねぇ。鈍感って、時に凶器だよね」
「さっきから何を言ってるのよ」
「そういうことは、他人がとやかく言うことじゃないからねー。でも、仕方ないよ。桐谷さん、可愛いし」
「か、かわいい? 私が?」
全然、意味が分からない。可愛いだなんて、誰からも言われたことない。
「うん。桐谷さん、可愛いよ。それに、優しい。その優しさはいつも一生懸命で、真っ直ぐで明るい。一緒にいると、癒されるもん」
そんなことを言う香取さんをぽかんと見つめる。
「――そういうことだよ」
香取さんがそんな私を見て笑った。