君の音に近づきたい


成功したんだ――!


込み上げる達成感で、身体中がふわふわとする。

立ち上がり、舞台の前方まで出て行き、深くお辞儀をする。
観客席に近付いたことで、よりお客さんの反応を感じた。

いろんな人の顔が、興奮しているように見える。

こんなに大勢のお客さんから拍手をもらったことがない。大きな舞台に立つことから逃げて来た。
私は、こんな感動を知らずにいたんだ――。

二宮さんのファンの人たち。きっとあまりにイメージが違い過ぎて、腰が抜けたかもしれないけれど。
でも、この反応を見れば確信できる。
絶対に、二宮さんをもっと好きになったはずだ。
本当のファンなら、絶対――。

大歓声にもう一度頭を下げ、そして舞台袖へと引き上げて行った。

照明が頭上から消えても、未だこの興奮は収まらない。


「桐谷っ!」


ドクドクと激しい鼓動のままその声に振り向くと、突然視界が遮られた。


「に、二宮さん……っ!?」


びっくりして声を上げる。


「最高だ。こんな興奮、味わったことない。舞台で演奏して、いや、ピアノを弾いてこんなにも心躍ることなかった。最高に楽しかった!」


私をきつく抱きしめながら、二宮さんが興奮を抑えられないかのようにはしゃぐ。それが、本当に少年みたいで。抱きしめられているなんて状況を気にするより、心から嬉しそうな二宮さんを見て嬉しくなった。


「はい! 私もです。凄く楽しかった。いつまでも終わらないでほしいって、そう願っちゃうほど」


素直に二宮さんの胸に頭を預ける。
今だけは、何も考えずに、こうしていたい。


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