君の音に近づきたい
2 最悪なひと



本格的に授業が始まった。

念願叶って始まった高校生活の、現実が少しずつ見え始めていた。

「ソルフェのクラス分けテストどうだった?」

「全然だめ。私、ソルフェ本当に苦手なんだよねー」

休み時間。教室のあちらこちらか賑やかな会話が聞こえて来る。
いくつかのグループが出来ている。

入学からまだ一週間も経っていないというのに、まったく緊張感のない教室。
もう既にみんな馴染んでる。

早速、私だけ疎外感を感じているのは気のせいだろうか?

「桐谷さんは、知り合い誰もいないの?」

私の前の席に座る香取さんが、憐れむような目で私を見ている。
唯一私に視線を留めてくれた香取さんに、縋るように前のめりになって言葉を発した。

「どうしてみんなこんなにもう仲いいの? 入学したてのクラスとは思えない」

「そんなの当然でしょ?」

「え……?」

そんな私に、不思議そうな目を向けてきた。 

「だって、入学前からみんな知り合いみたいなものでしょ。子供の頃からコンクールで顔合わせてるし、入賞者の顔ぶれなんて大体決まって来るんだし。毎年いろんなコンクールで顔合わせていれば知り合いにもなる。それに、この音大の付属音楽教室出身者も多い。それこそ、ちっちゃい時から同じ教室でレッスン受けてるんだから、友達じゃない」

そうだった。ここにいる人の多くは全国区。
私だって顔を見知っている人ばかり。そんな彼女、彼たちは知り合い同士なのはなんら不思議はない。
ただ、私一人が無名なだけであって……。

「桐谷さんは……?」

そうだよね。不思議に思われるのも無理はない。

「私は、ここの教室出身でもないし、大したコンクール受賞歴もありません……」

香取さんを前に、しゅんとしてしまった。

「まあ、別に入試にコンクール受賞歴は直接関係ないし。ちゃんと合格してここにいるんだから、いいんじゃない? 堂々としていれば」

慰めてくれているのだろうか……。
香取さん、クールな見た目とは違って、もしかしたら優しい人なのかもしれない。

それか、呆れて同情してくれたのかな。

< 12 / 148 >

この作品をシェア

pagetop