君の音に近づきたい
2 最悪なひと
本格的に授業が始まった。
念願叶って始まった高校生活の、現実が少しずつ見え始めていた。
「ソルフェのクラス分けテストどうだった?」
「全然だめ。私、ソルフェ本当に苦手なんだよねー」
休み時間。教室のあちらこちらか賑やかな会話が聞こえて来る。
いくつかのグループが出来ている。
入学からまだ一週間も経っていないというのに、まったく緊張感のない教室。
もう既にみんな馴染んでる。
早速、私だけ疎外感を感じているのは気のせいだろうか?
「桐谷さんは、知り合い誰もいないの?」
私の前の席に座る香取さんが、憐れむような目で私を見ている。
唯一私に視線を留めてくれた香取さんに、縋るように前のめりになって言葉を発した。
「どうしてみんなこんなにもう仲いいの? 入学したてのクラスとは思えない」
「そんなの当然でしょ?」
「え……?」
そんな私に、不思議そうな目を向けてきた。
「だって、入学前からみんな知り合いみたいなものでしょ。子供の頃からコンクールで顔合わせてるし、入賞者の顔ぶれなんて大体決まって来るんだし。毎年いろんなコンクールで顔合わせていれば知り合いにもなる。それに、この音大の付属音楽教室出身者も多い。それこそ、ちっちゃい時から同じ教室でレッスン受けてるんだから、友達じゃない」
そうだった。ここにいる人の多くは全国区。
私だって顔を見知っている人ばかり。そんな彼女、彼たちは知り合い同士なのはなんら不思議はない。
ただ、私一人が無名なだけであって……。
「桐谷さんは……?」
そうだよね。不思議に思われるのも無理はない。
「私は、ここの教室出身でもないし、大したコンクール受賞歴もありません……」
香取さんを前に、しゅんとしてしまった。
「まあ、別に入試にコンクール受賞歴は直接関係ないし。ちゃんと合格してここにいるんだから、いいんじゃない? 堂々としていれば」
慰めてくれているのだろうか……。
香取さん、クールな見た目とは違って、もしかしたら優しい人なのかもしれない。
それか、呆れて同情してくれたのかな。