君の音に近づきたい
「――桐谷さんのご両親、ステキだね。お母様は面白いし、何よりお父様が超イケメン!」
「う、うん。まあ、ね……」
それは、もう、幼稚園の頃からよく言われていること。
”春華ちゃんのお母さんって面白いね”
”春華ちゃんのお父さんってかっこいいね”
「イケメンと言えば! 私、二宮奏にびっくりしたんだけど」
香取さんが目を見開いて私に言った。
「これまでのイメージと全然違ってて。ほら、あの人、どこかお上品っていうか貼り付けたみたいな笑顔浮かべて。そんなイメージだった。でも、今日はほとばしる激情っていうか、生身の人間の音楽を聴かせてもらったって感じで鳥肌立ったよ。実は凄いピアニストだったんだって、見直した」
「そうだよ。二宮さんは、最初から本当はそうなの。みんなが知らないだけだったんだよ!」
嬉しい――。
聴いている人にもちゃんと、二宮さんのピアノが伝わったんだ。
「私なんかよりよっぽど、今日駆け付けてたファンの子たちが度肝抜かれたと思うけど。私の近くにいた二宮ファン、失神しそうな勢いだったよ。笑顔の貴公子が、あんなセクシーで激しい演奏しちゃったんだもん」
「失神……」
ファンをがっかりさせるどころか、余計にファンの心を奪ったんじゃ――?
そう思って一人笑ってしまう。
「二人の演奏、本当に息ぴったりで。何ていうか、見ていてドキドキしちゃうような空気を作ってたよ」
「ドキドキ……?」
「勘ぐりたくなる人なら、勘ぐっちゃうような……?」
じろりと思わせぶりな視線を私に向ける。
「ば、バカなこと言わないで」
「バカなことなのかな……。まあいっか。今は、それならそれで。私としては楽しみに今後の展開を待ってます」
「人のことで楽しまないでよ!」
「はいはい」と軽くあしらわれる。
「それよりさ、01教室、行かなくていいの? 二宮さんが待ってるんじゃない?」
「う、うん。行って来る!」
演奏が終わってからずっと。この心は、もうここにはない。
だから、こんなにも落ち着かないのだ。