君の音に近づきたい


制服に着替えて、01教室に急いだ。


扉の前に来て立ち止まり、呼吸を整えた。
そして、鉄のドアを押す。

中を恐る恐る覗きながら開けて行く。


「――来たか」


グランドピアノに身体を預けて立っている二宮さんの姿が、すぐに視界に入った。
二宮さんも、ネクタイはしていないけれど既に制服姿になっていた。


「あの……」


こうしていざ顔を合せたら、何を話したらいいのか分からなくなる。
もう、終わってしまったのだ。


「二人で、打ち上げするか」


二宮さんがにっこりと笑う。


「桐谷が頑張ったご褒美」


ご褒美――。


「本当は、文化祭の模擬店で何か奢ってやろうと思ったけど、誰かに騒がれて邪魔されても面倒だし――」


あ、そうか。今日は二宮さんのファンが大挙してここに来ている――。


「この練習室で頑張って来たから、ここで、二人だけの打ち上げ」


そう言って、二宮さんがペットボトルを二本掲げた。


「……準備、してくれたんですか?」

「こんなものしかなくて悪いけど」

「い、いえ。ありがとうございます」


そうやって考えてくれていたことが何より嬉しい――。

心からそう思った。


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