君の音に近づきたい
「ーーバカだな。別れの挨拶みたいな顔をするなよ。桐谷は俺の友達だって言ってんだろ」
「え……?」
二宮さんが、その目を細めて笑う。
「またここで、ピアノ、弾こうな」
「いいんですか……?」
長い指で軽く私の額を弾いた。
「当然のことを聞くな」
痛くもないのに、触れられた場所を手で押さえる。そうしていないといられないくらい、動揺している。
「友達とピアノを弾く。驚くことでもおかしなことでもないだろ?」
嬉しいのに、今までみたいに無邪気に喜べないのはなぜーー?
たとえ友達でも、男の子だから二人きりでいると、こんなにも心が忙しなくなるのか。
でも、林君と二人でいても、心はこんな風にはならない。
「おい、聞いてんのか?」
「え? あ、いや……はい」
まただ。二宮さんと視線が合うたび胸が飛び跳ねる。
「どっちだよ」
すっとその手が伸びて私の頭を撫でる。
二宮さんが私に触れることが増えて。
それが親しみの証なんだと分かっているのに、私一人がドギマギとする。